『007 スペクター  』映画レビュー

SPECTRE(c)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved
SPECTRE(c)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved
『007 スペクター』は、壮大なアクションシークエンスからスタートする。メキシコ死者の日のフェスティバルがその舞台。エキゾチックな雰囲気満載だ。サミディ男爵(ボンド映画の悪役の一人で、『死ぬのは奴らだ』に登場)並みの薄気味悪い髑髏の仮面をかぶった、一人の男が歩いていく。その足取りを長回しのカメラで追っていく。男の正体は、誰でもすぐに気づくはずだ。

今までのボンド映画を流れそのままの、純粋なアクションスパイ映画に見える。しかし、サム・メンデス監督が作り上げているのは、アクションやスパイ映画の枠を超えた、知性や哲学が滲み出る世界だ。そういう世界観の中に、メキシコ上空だけでなく、オーストリアの雪山、モロッコ野砂漠、ローマの街並みでのカーチェイスシーンなどの、アクション場面が挟み込まれている。

メキシコ行きを指令した人物は、男を殺し、その男の葬式に潜入するようにも伝えていた。そこでジェームズ・ボンド(ダイエル・クレイグ)は、ある男を目撃する、その男こそが、悪の組織スペクターのリーダー、フランツ・オーベルハウザー(クリストフ・ヴァルツ)だった。オーベルハウザーとの死闘が繰り広げられるストーリーの中で、隠れたテーマになっているのは、今までのボンド映画では決して描かれることのなかった要素、家族だ。

SPECTRE(c)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reservedPictures/Columbia Pictures/EON Productions??? action adventure SPECTRE.
SPECTRE(c)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc., Danjaq, LLC and Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reservedPictures/Columbia Pictures/EON Productions??? action adventure SPECTRE.
幼いころに両親を失ったジェームズ・ボンドには、家族はいない。だが、スペクターで描かれるのは、血縁はないものの家族の物語だ。スカイフォールで死別した旧Qとの関係は、母と息子のようでもあり、スペクターでは、もう一人の家族が姿を現す。

物語は旧約聖書で描かれたカインとアベルのようでもある。不思議と悪役のはずのオーベルハウザーの気持ちもわかるような気がするのは、クリストフ・ヴァルツの卓越した演技力のせいだけではない。私の心に潜む、嫉妬心や軽んじられる苦しみがあるからだろう。

オーベルハウザーの描かれ方に比べて、ボンドの方は軽みがあって、今までよりは、ずっと紳士的で普通の男に近くなっている。女性を手玉にとりつつ、使命のためなら信じがたいこともやりきってしまう、荒々しい魅力に満ちたジェームズ・ボンドをもう一度見たい。(オライカート昌子)

007 スペクター  
2015年イギリス アメリカ/カラー/148分/ 出演:ダニエル・クレイグ(ジェームズ・ボンド)、クリストフ・ヴァルツ(オーベルハウザー)、レア・セドゥ(マドレーヌ・スワン)、ベン・ウィショー(Q)、ナオミ・ハリス(イヴ・マネーペニー)、デイヴ・バウティスタ(Mr.ヒンクス)アンドリュー・スコット(マックス・デンビ)、ロリー・キニア(タナー)、イェスパー・クリステンセン(Mr.ホワイト)、ステファニー・シグマン(エストレラ)、モニカ・ベルッチ (ルチア・スキアラ)、レイフ・ファインズ(M)
監督: サム・メンデス

11月27・28・29日先行上映、12月4日全国公開