シンデレラ(2015)映画レビュー

あのシンデレラなのに、味わいは違う。芳醇で豊かな『シンデレラ』が、ケネス・ブラナー監督の実写版のシンデレラだ。今までのシンデレラは、おとぎの世界の物語だから、時代も場所もあいまいだけれど、ケネス・ブラナー版は、しっかりと現実感を伝えてくる。

エラが住む屋敷の家具調度には、ジャポニズムの影響がある。ケイト・ブランシェット演じる、継母のファッションにアール・デコ的イメージが生かされている。そんな風に舞台装置は新鮮であり緻密だ。おとぎ話の世界が、私たちの世界と地続きに感じられ、親近感のある舞台に変わっている。だから、登場人物一人ひとりの存在感の強さも強く印象的だ。

テーマである、「勇気を持つこと」「優しくあること」は、実母のせりふにある言葉。死の床で、母はエラに言う。「一緒にいれなくなって、ごめんなさい。許してね」、と。エラは、悲しみを隠して、うなずくしかない。母が、自分の無念を押しやって、娘の心を思いやって言った言葉だから。

エラは、思いやりの心とともに育っていく。父も再婚するときは、窮地にいる未亡人を助けるつもりで再婚相手に選ぶ。家族が増えても、エラには父だけが頼りだ。だが、ある日、父の旅先での不幸の知らせがもたらされる。エラは、そのニュースを伝えた相手にも思いやりの言葉を示す。「このニュースを伝えるのは、あなたにとっても大変だったでしょう。ありがとう」と。

そんな心が全く通用しない相手もいる。優しい心根につけこんで、いいように利用しようとする継母たちだ。でも、エラはめげない。どんな人が相手でも、どんな態度をとられても、思いやりの心を示し続ける。傍目から見たら、どんなに愚かに見えたとしても。自分のことばから居心地のいい自室を追い出され、みすぼらしい屋根裏部屋に住むことになっても、小間使いのように使われて、シンデレラと呼ばれ、笑われても。

優しさを貫くには勇気がいる。勇気に裏打ちされない優しさは無用だ、それを伝えるこの映画の方法は、あくまでも、エレガントで美しい。アニメ版「シンデレラ」の、記号的アイテムは、しっかりと残し、大胆に作り変えてしまったケネス・ブラナー版シンデレラは、見た人に感動と元気を両方もたらしてくれるはずだ。

(オライカート昌子)

シンデレラ

2015年4月25日(土)全国公開
公式サイト http://www.disney.co.jp/movie/cinderella.html