めでたく政界から映画界に帰って来たアーノルド・シュワルツェネッガーの最新主演作は、メキシコ国境の町を舞台にした現代版西部劇。護送車から脱走した麻薬王コルテス(エドゥアルド・ノリエガ)は、並はずれたハイテク武器と鍛え抜かれた傭兵に守られ、大胆不敵にも国境に橋を造成して逃げおおせようと画策。むろんシュワルツェネッガー扮する保安官レイが彼の逃亡を簡単に許すはずはないが、多勢に無勢の、圧倒的不利な戦いを強いられる。
『エクスペンダブルズ』シリーズでは、シルヴェスター・スタローンのリードのもと、セルフパロディを披露するなど愛嬌を見せたが、やはり彼は主人公を演じてこそ魅力を最大限に発揮する。この映画はその証明のようなものだ。
ロサンゼルスを混乱の極みに陥れたコルテスは、時速400キロも出るスーパーカーでメキシコ国境のアリゾナ州ソマートンへと疾走する。FBI捜査官(フォレスト・ウィティカー)は「SWATを送るから、彼らに任せろ」と指示するが、SWATは途中でコルテスらに簡単に片付けられてしまう。
おりしもアメリカンフットボール観戦のため大半の住民が不在で、町にいるのはレイたち保安官と数人の老人だけ。副保安官を一人殺され、彼の弔い合戦を決意したレイは、ベテラン副保安官、女性副保安官、その元恋人で留置場にいる復員兵、そして骨董品のような武器を大量に持つオタクを仲間に入れて、作戦を練る。その戦いぶりは見てのお楽しみだが、ある老婆の家に侵入して油断しきった傭兵が、彼女が椅子に隠し持ったライフルでズドンと一発やられてしまうシーンが好きだ。こういう老後を目指したいものである。
とうとう追いつめられたコルテスがレイに頼む。「(難民が)毎日1万2千人も逃げて来るんだ、一人くらい帰ってもいいだろ?」。そしてワイロを200万ドルまでつりあげる。なんでも金で解決してきた麻薬王は、金より大事なものがあるということがまるでわからない。すべての戦いにおいてものをいうのは金と武器ではなく、知恵と心意気である。そう思いたいではないか。
この理想は現実ではなかなか成立しえないが、映画でなら成立する。そしてシュワルツェネッガー主演作でなら、さらに明るく正しく幸福に成立する。韓国人監督キム・ジウンが颯爽たるハリウッドデビューをきめた。
(内海陽子)
ラストスタンド
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