『ハルビン』映画レビュー 思いがけないラストの余韻

スケール感のある歴史的事件を描いた映画には大味なイメージがある。ところが、映画『ハルビン』は、格調の高さときめ細やかさが抜群。1909年のリアリティ感も一気に観客を引き込む。アクションサスペンスにも強度があって気が抜けない。別世界のライドに乗ったようだ。

最初からしてショッキング。どこまでも続く凍りつく湖を歩く男。男を待つ人々。男は裏切り者だと思われている。それ以前の事件での対応がきっかけだ。男に仲間の元へと戻る勇気はあるのか。仲間は男を待つ意味はあるのか。男は戻って来る。何と言われていようと。なぜなら彼には強い意図があったから。

男はアン・ジュングン。演じるのは韓国のスター中のスター、匕ョンビンだ。歴史的事件をフィクションを交え、映画作品に仕上げるジャンルが今の韓国映画の一つの柱になっている。代表的なのは、、『ソウルの春(24)』『タクシー運転手 約束は海を越えて(18)』、『南山の部長たち(20)』、『1980 僕たちの光州事件(24)』など。映画『ハルビン』が描くのは、今より116年前、1909年10月アン・ジュングン(安重根)と同志たちがハルビン駅で伊藤博文(リリー・フランキー)を狙う計画だ。
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監督のウ・ミンホは、今までの作品、(『KCIA 南山の部長たち』『インサイダーズ/内部者たち』)でみると、面白さだけをひたすら追求するタイプというよりは、誠実にこだわり描きぬくという作風を感じた。その特徴は『ハルビン』でも健在。ロケ地にモンゴルやラトビアまで赴いたり、インタビューでカラバッジオの絵柄を参考にしたというように。スターで主演のヒョンビンの姿も、ほとんど帽子などの影に隠れ顔がはっきり見えない演出も目立つ。

ところが、誠実を貫く過程で生まれたものが逆説的におもしろさを盛り上げることもある。『ハルビン』では強烈にエンターテイメント魂を炸裂させる。極度に真面目な人が時に場を盛り上げようとするお調子者より面白さや楽しみを与えてくれる場合があるように。

敵役としてアン・ジュングンを狙い続ける日本の将校森(パク・フン)の同じ台詞回しもそうだし、アン・ジュングンの表情は、たった一つはっきり写しだ出すシーンがある。その忘れがたい一瞬の重厚さが作品の質を決定づけている、思いがけないラストの締めにも満足度が高い。

(オライカート昌子)

ハルビン
7月4日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス
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製作:HIVE MEDIA CORP 『ソウルの春』
監督:ウ・ミンホ(『KCIA 南山の部長たち』『インサイダーズ/内部者たち』)
脚本:キム・キョンチャン、ウ・ミンホ
撮影:ホン・ギョンピョ『パラサイト 半地下の家族』
出演:
ヒョンビン「愛の不時着」『コンフィデンシャル:国際共助捜査』
パク・ジョンミン『密輸 1970』
チョ・ウジン『インサイダーズ/内部者たち』
チョン・ヨビン「ヴィンチェンツォ」
パク・フン『ソウルの春』
ユ・ジェミョン「梨泰院クラス」
イ・ドンウク「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」
リリー・フランキー『万引き家族』
チョン・ウソン(特別出演)『ソウルの春』
2024年/韓国/114分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/映倫G/字幕翻訳:根本理恵  
原題/하얼빈 HARBIN
韓国公開日 2024年12月24日
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