ラストで衝撃のあまり、そのまま脱力してしまって動けなくなるほどの映画に出会うことはないだろうか。それは滅多にないことだけど。『満ち足りた家族』はそういう映画だ。
韓国映画には変化球が多いイメージがある。ところが『満ち足りた家族』は直球。オープニングからして力自慢の超速球だ。車の運転手同士のいざこざが、とんでもない状況を引き起こす。
次に映画は一転して、スロー気味になり、満ち足りた生活をする二つの家族の姿が登場。父は兄弟同士。兄ジェワン(ソル・ギョング)は成功した弁護士。弟ジェギュ(チャン・ドンゴン)は信頼厚い医者。ジェワンは、金銭を追い求め、ジェギュは信念に従う。二人とも美しい妻と10代の子どもを持っている。
問題があるとすれば二人の母が痴ほう気味なところ。今は弟ジェギュの年長の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)が献身的に面倒を見ているが、長男の受験が控えている。今後どうすればいいのか話し合いが必要だ。語り口は軽妙。ゆったりとしたさざ波のように心地良い。
ところがそこで、ある秘密の存在があかされる。どうすればいいのか。問いは二つの家族の突きつけられるが、同時に見ている側にも突きつけられる。穏やかな風が突然暴風に変わったようだ。心理的にダイブしていくイメージが浮かんだ。
切れ味の鋭さがどんどん増してきて、最後まで気を抜けない。それどころか、最後に放たれるのが特大ホームランなのだ。
監督は『8月のクリスマス』で頭角を現したホ・ジノ。監督のスムーズな演出術も見事ながら、二人の主演俳優ソル・ギョング、チャン・ドンゴンの凛としたたたずまいに背筋が伸びる思いだ。妻たちを演じる二人、キム・ヒエとクローディア・キムもそつがなく、繊細な演技が目を引く。人間の心理の奥底がどれほどのものか、観客としての私たちは思い知らされる。
満ち足りた家族
2025年1月17日(金) 全国ロードショー
監督:ホ・ジノ 出演:ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キム
2024年/韓国/116分/シネスコサイズ/5.1ch/字幕翻訳:福留友子
原題:보통의 가족/英題:A
NORMAL FAMILY/PG12
提供:KDDI 配給:日活/KDDI
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