『八犬伝 』映画レビュー 2重世界から浮かび上がる意思

映画『八犬伝』のおもしろさは、2つの世界を交互に見せてくれること。「八犬伝』の物語と、『八犬伝』を書いた滝沢馬琴(役所広司)の日常と生涯。一本ずつ、独立させて二本の映画にしてもよかったんじゃないかという意見もあるけれど、それでは意味はない。だいたいこの方法は、原作の山田風太郎の『八犬伝』そのままなのだ。

全く違う世界。どちらも完成度も高く、見ごたえ十分だ。

馬琴の日常を描いたパートは、江戸末期の市井が活写され、大江戸ホームドラマのよう。馬琴と北斎(内野聖陽)の友情話、やたら強気で口の悪い妻(寺島しのぶ)、父の期待を一身に背負った自慢の息子(磯村勇斗)、生き生きとして楽しい。楽しかったのもつかの間、時が経つにつれ、リアリティの重みが増してくる。

一方の『八犬伝』ストーリーは、室町時代の華やかさとアドベンチャースペクタクルがまぶしい。呪いや奇異など、江戸末期ごろ人気があったおどろおどろしい要素が、迷宮のような世界観を作り出し、こっちはこっちで、新鮮この上ない。

なぜ二つの世界を描くのか、その秘密は、江戸パートでこっそり明かされる。実と虚。というワードが何度も出てくる。

個人的に嬉しかったのは、芝居小屋観劇会と、鶴屋南北の登場だ。鶴屋南北は、東海道四谷怪談の作者。鶴屋南北と馬琴は、ライバル意識を持っているらしい。芝居でかかるのも、東海道四谷怪談だ。

忠臣蔵について、馬琴は「何度見ても面白い」、北斎は「つまらない」と言い合うけれど、わたしは馬琴の意見に賛成。特に歌舞伎の忠臣蔵は、見れば見るほどそのおもしろさに驚く。東海道四谷怪談は、忠臣蔵にくるまれている。虚と実が同居している。

映画『八犬伝』を最後まで見ると、力強いテーマがゆっくりと立ち上がる。ああ、これは、意思の物語だったのか。強い意志の力が、何百年もの時を超えて心に染み入る。

(オライカート昌子)

映画『八犬伝』
映画『八犬伝』は10月25日(金)全国ロードショー!
配給:キノフィルムズ
©2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.
原作:『八犬伝 上・下』山田風太郎(角川文庫刊) 
監督・脚本:曽利文彦
出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木 仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久 創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、大貫勇輔、立川談春、黒木華、寺島しのぶ
製作:木下グループ 制作プロダクション:unfilm 2023/日本 G
公式サイト:https://www.hakkenden.jp
公式X・公式Instagram: @hakkenden_movie
本予告:https://youtu.be/TXGAj0ld5fI