映画『パスト ライブス/再会』

「京都は文化財が多く、新婚旅行で訪れた思い出もあるから、

そこには原爆を落としたくない」。

こんなセリフが飛び出す映画『オッペンハイマー』と

アカデミー作品賞を争った『パスト ライブス/再会』を紹介する。

物語のキーワードは「運命」。

映画の中で何度となく繰り返されるのが韓国のコトバ、縁(イニョン)だ。

で、原題の「パスト ライブス」は「前世」。

言うなれば、転生、生まれ変わりがもうひとつのキーワードとなる。


はたして、あの時の決断は正しかったのか。

男女が思いを巡らせるいくつもの、「もしもあの時」が、

観客一人ひとりの人生におけるあの時の「選択、決断」に重なって、

忘れられない記憶を揺り起こす。

そして映画史に残るであろうエンディングは、

現世で運命の人と巡り合うことの奇跡と儚さに胸が高なり、

涙が止めどなく溢れることとなる(はずだ)。


海外移住のため離れ離れになった幼なじみのふたりが、

24年の時を経て、ニューヨークで再会する7日間を描いた、

アメリカ・韓国合作のラブストーリー。

韓国のソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソンは、

互いに恋心を抱いていたが、

ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。

12年後、24歳になり、

ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、

オンラインで再会を果たすが、

互いを思い合っていながらも再びすれ違ってしまう。

そしてさらに12年後の36歳、

ノラは作家のアーサーと結婚していた。


ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れ、

ふたりはやっとめぐり合うのだが……。

これが長編映画監督デビュー作となるセリーヌ・ソンが、

12歳のときに家族とともに海外へ移住した自身の体験をもとに

オリジナル脚本を執筆し、メガホンをとった作品である。

ノラ役はNetflixのドラマシリーズ

『ロシアン・ドール 謎のタイムループ』や

声優として参加した『スパイダーマン スパイダーバース』などで

知られるグレタ・リー。

ヘソン役は『LETO レト』『めまい 窓越しの想い』のユ・テオ。


2023年、第73回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門出品。

北米での封切り時はわずか4スクリーンだったが、

その評判が口コミで急激に拡散し、5週目には900スクリーンを突破。

その勢いで第96回アカデミー賞では作品賞、脚本賞にノミネートされた。

この作品の興奮度は映画館特有の暗闇にある。

その醍醐味は家庭のテレビ鑑賞ではけっして得られない。

だから、終映が夕方以降であることが望まれる。

きっと男と女では感じ方が違うだろう。

男と女では涙の流し方も違うはず。

きっと、この映画の前に観客は皆、感情が丸裸にされるのだろうな。

見終わって数日経つとその味わいは微妙に変わってくる。

まるでワインのように芳醇だ。

そしてまた、映画館の暗闇がいとおしくなる。

きっと、この映画の前に観客は皆、

感情が丸裸にされるのだろう。

できるならば、キャロル・リード監督の遺作『フォロー・ミー』(1972年)と2本立てで見たい。

ともに共鳴しあう傑作だから。

(武茂孝志)

『パスト ライブス/再会』

監督・脚本

セリーヌ・ソン

キャスト

グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ

2023年/アメリカ、韓国/106分/原題:Past Lives

第96回米国アカデミー賞 作品賞/脚本賞 ノミネート

第81回ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)、監督賞、主演女優賞、脚本賞、外国語映画賞 ノミネート

第73回ベルリン国際映画祭 コンペティション部門正式出品

第33回ゴッサム賞 作品賞受賞

提供

ハピネットファントム・スタジオ、KDDI

配給

ハピネットファントム・スタジオ

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