(C)Filmfinance VI 2011-All Rights Reserved
権力をかさにきた極悪ぶりは、昔だったらありふれた物語だったかもしれないが、現代社会ではそれは不可能だ。ウダイ・フセインを除けば。かつてのイラクの大統領サダム・フセインの息子なら、普通の悪人では願ってもできないことでも、なんでも可能だ。

そんなウダイ・フセインの無軌道で非道で豪華絢爛な生活を再現する映画が登場した。影武者(替え玉)に無理やり仕立て上げられた男の自伝の映画化が『デビルズ・ダブル』なのである。監督にニュージーランド出身のリー・タマホリ。『007/ダイ・アナザー・デイ』などアクション映画に定評がある。

そんなわけで、この映画は、ワイドショー感覚でブラック・プリンス(ウダイの異名)の私生活を覗き見する興味を掻き立てるだけでなく、アクションあふれるシャープな演出でも楽しめる、二倍の面白さがある。

だが一番のみどころは、ウダイ・フセインと影武者ラティフ・ヤヒアの二役を演じる、ドミニク・クーパーの演技なのは間違いない。同じ俳優が演じていると知っていても、見ているうちに完全にそれを忘れるし、知らなかったら、同じ俳優だとは思いつかないほどの歯切れのいい演じ分けなのだ。

(C)Filmfinance VI 2011-All Rights Reserved優れた演じ分けは、容貌が似通った男たちの内部の深みにまで到達する。わたしたちは、影武者ヤヒアの苦悩、憎しみ、矜持に心動かされる。同時にウダイの狂気に満ちた行動に嫌悪させられながら、根底にある哀しみにも複雑な思いを抱かせられる。

悪人だからと突き放さずに、その心底まで演じきった勇気に拍手を送りたい。そのおかげで、かすかに浮かび上がるのが現在進行形の中東の状況と歴史的背景かもしれない。父サダム・フセインが恐怖支配せざる得なかった理由が、少数(スンニ派)が多数(シーア派、クルド族)を支配する状況。それを招いたのは列強の憎しみを煽る間接統治政策。血で血を洗う世界で育ったウダイがまともに育つわけがない。

もちろん映画ではそんな面倒くさい描写はない。あくまでもエンターテイメントを追求し尽しているところが一番の魅力なのである。      (オライカート昌子)

デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-
2011年 ベルギー映画/109分/監督:リー・タマホリ/出演:ドミニク・クーパー(ウダイ・フセイン/ラティフ・ヤヒア)、リュディヴィーヌ・サニエ(サラブ)ほか/ギャガ配給
2012年1月13日(金) TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
公式サイト  http://devilsdouble.gaga.ne.jp/

【関連記事】
デビルズ・ダブル -ある影武者の物語 レビュー(池辺 麻子)