『ホビット 思いがけない冒険』の公開を前に監督・キャストの来日会見が行われました。出席したのは、ピーター・ジャクソン監督、ビルボ・バギンズ役のマーティン・フリーマン、トーリン・オーケンシールド役のリチャード・アーミティッジ、ゴラム役と第二班監督のアンディ・サーキス、フロド・バギンズ役のイライジャ・ウッドです。会見の模様を完全リポートします。

人間の勇気は人を救うときに試される

© 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
皆さんの挨拶の後、会見が始まりました。最初の質問は、「この映画は暴力的な描写がある一方で、究極な憐れみや命を救うというテーマが魅力を与えていますね」というもの。

ピーター・ジャクソン監督は、「この『ホビット 思いがけない冒険』は、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のおよそ60年前の出来事が描かれています。ですから『ホビット 思いがけない冒険』の結果がどういうものなのかというのは、皆さんはすでに御存知なわけです。

ビルボはゴラムと対峙しているときに指輪をしていたため透明で、ゴラムを殺す機会がありましたが、そこで憐れみを見せます。そのことが『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』の最後の火山のシーンに繋がるわけです。

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のいろいろなことが、『ホビット 思いがけない冒険』を見ると説明されていて、序章になっている。そのことがわたしにも興味深かったです」

ビルボ役のマーティン・フリーマンさんは、「今とても重要なビルボとゴラムのシーンについて言っていましたが、ガンダルフのことばに、人間の勇気は人を救うときに試されるというものがあります。正にそれが人間性であり、真実だと思います。

このビルボ役はわたしにとってとても責任の重いものだったので、このことばに支えられ、役作りの基本になりました。ビルボは感情をあらわにする人ではないので、彼の性格から言うと、死ぬか生きるかという場面でも人を殺すことはなかったと思います」と語りました。

次の質問は、ピーター・ジャクソン監督がこの映画を作ることで目指したものについて。ピーター・ジャクソン監督は、「わたしが映画を作る一番の目的は逃避です。ロマンスやミステリーなどを見るときもそれを目的に僕は映画を見ます。色々なタイプの映画がありますが、わたしが作る映画、つまり好きな映画というのは、逃避できる、全く違う世界に連れて行ってくれる映画なのですそしてキャラクターが感情移入できる、エモーショナルなものが好きです。

ですからみなさんにも逃避的なものを提供したい。ファンタジーは、そういう意味で目的に合っているのです。特にトールキンの作品は、究極的なファンタジーと言えると思います。私たちが知っているようで知らない、エキゾチックな世界観、ゴブリンやトロルやいろいろなクリーチャーがでてくる、お伽話的ファンタジーが好きなのです」

ファミリーのように暖かさに満ちた撮影体験

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次にキャストそれぞれにこの映画に参加できた意義について語ってもらいました。
ゴラム役と第二監督を務めたアンディ・サーキスさんは、「もう一度ニュージーランドに戻るのは素晴らしい体験でした。旧友とも出会いました。多少、年を取り、子供が増えた人もいました。新しいキャストのメンバーもたくさんいましたが、みんな一生懸命仕事をする楽しい人なんです。もう一度ゴラム演じるチャンスを演じる機会がありましたし、ずっと願っていた第二班の監督も任されました」

イライジャ・ウッドさんは、「アンディが言ったことと同じく、とても素晴らしい体験でした。戻れたのはギフトだと思います。それから今回新しいキャストが旅をする体験は、僕たちが『ロード・オブ・ザ・リング 旅の仲間』で旅をしたことと写し鏡のように感じました。

現場に戻ると、情熱と愛情を持ったキャスト・スタッフが集結し、この作品をまた作っている、その様子を見ることができただけでも美しい体験でした。ホビットは、ロード・オブ・ザ・リングに比べると、スケールが大きい映画ですが、さらに親密で家族のような温かい環境になっていました」

トーリン・オーケンシールド役のリチャード・アーミテッジさんは、「わたしはロード・オブ・ザ・リングの大ファンです。ピーター・ジャクソン監督が作るこのような作品は、おそらく、将来にリメイクされる可能性はほぼゼロということを考えると、わたしが演じたトーリンは、唯一のトーリンになるでしょう。

そういうことを考えると、責任の重さ、ちょっと怖いような気持ち、そして大きな期待を持ってニュージーランドへ行くことになりました。自分の人生の中で最も思い出深い貴重な18ヶ月間でした」と答えました。

マーティン・フリーマンさんは、「偶然とは思えないように皆さんが同じような感想を持ったと思います。その中でよく出てきた言葉がファミリーという言葉ですが。ファミリーのような関係。スタジオで行われた撮影は、世界で一番大掛かりな撮影であろうと思いますが、それにもかかわらず、学生がアドホックで撮影しているような、和気あいあいとした親密な雰囲気があふれるような、そういう現場でした。

皆さんに受け入れられるような作品となってお届け願っているのですが、演技にしてもアートにしても根本にあるのは、愛しているから、楽しんでやったからということがあると思います。自分が演技をして価値のある作品だったと思います」

ビルボとトーリンのキャスティングの理由は真実味と正直さ

ホビット 思いがけない冒険
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マーティン・フリーマン、リチャード・アーミテッジの二人をキャスティングした理由について聞かれ、ピーター・ジャクソン監督は、「まだ撮影が全て終わったわけではないので、この質問には慎重に答えなくてはいけません。どんな映画でも僕が俳優に求めるのは真実味と正直さです。二人共それがうまく出来る。ふりをするのではなく、演技ではなく真実味。特にこれはファンタジーでは大切です。ホビットやドワーフ人間ではありません。ですが、それを演じることで、我々が共感できないとお話にならないのです。

マーティンさんは、ドラマチックアクターで、ほんとうに真剣な演技をする人なんですけど、ハートとユーモアを兼ね備えています。ビルボはヒーローになりたくないのに、こんな状況になってしまった、また、ドワーフと付き合いたくないのに、付き合うことになってしまった、そういう状況から生まれるコメディを表現するのが上手いのです。ドラマチックアクターの中で、ユーモアが出せるというのは、稀なことです。

監督としてありがたいのは、6回か7回テイクをとると、毎回違った演技を見せてくれて、それぞれが新鮮なこと。編集室ではどれをとってもいいので悩まされました。

この映画の中でビルボがハートの部分を担っているとすれば、リチャードのトーリンは魂の部分を担っています。トーリン役のオーデションではいろいろな俳優を見たのですが、リチャードは、王としての高貴な姿を見せてくれます。また、少人数で旅に出てドラゴンを倒して故郷に帰郷することが、果たしてできることなのかという葛藤も、彼は上手に表現できるのです。

そして静かなる姿勢で目を引きつける才能に富んでいる。トーリンが映像に出ていると、なぜか彼から目が離せなくなる、そういうものを持っています」と語りました。

ロード・オブ・ザ・リング三部作のあとで、この映画をとることになったきっかけは? と聞かれ、「正直に言いますと、他の人に取られたくなかったからです。ロード・オブ・ザ・リングを撮り終えて、またニュージーランドで映画を作るチャンスはやはりホビットだと思ったのです。

2つのスタジオが『ホビット』の権利を持っていたので、なかなか作ることができませんでした。ただ彼らが作る気になったら、僕達は関わりたいと思っていました。とにかく今回のホビットは楽しかったです。今までの経験の中で一番楽しかったと言えます」と答えました。

お互いから見たビルボとトーリン

ホビット 思いがけない冒険の会見の模様 
左より アンディ・サーキス、ピーター・ジャクソン監督、マーティン・フリーマン、リチャード・アーミテッジ、イライジャ・ウッド
マーテイン・フリーマンとリチャード・アーミテッジさんに対して、お二人でお仕事をしていていかがでしたか? と聞かれ、マーティンさんは、「リチャードとは、とても仕事がしやすかったです。とても静かな人でありながら、強い決断力を持っている。ご自分にも、そして他の人の仕事にも敬意を表している。芯が強いのに謙虚、シーンを撮っているときも、何かをもたらそうとする人です。

ジムに行った時ですが、数名のトレーナーにガンガンやられたんですが、私は失神しそうになりながら、スポーツドリンクでそれを止めていた状況だったんですが、彼も大変だと思いましたが、それを見せずに冷静に静かにトレーニングに耐えていました。ストイックな人だと思います。

18ヶ月の間、疲れることもあるし、ホームシックになることもあるのですが、彼はずっと静かにストイックでした。そういう彼は、トーリン・オーケンシールド役に合っていたと思います。とてもいい方で、いいものをもたらしてくれたと思います」と答えました。

リチャードさんは、「マーティンには悪いと思っています。前日にお酒を飲んでしまうと、顔が赤くなり、次の朝の撮影で役に立たなくなってしまうので、僕はあまり人付き合いのよい人間ではないのです

彼は素晴らしい俳優で、同時にとても面白い人でもあります。僕が初日の撮影に入った時には、彼はすでに二週間ぐらい撮影をしていました。僕が見たのは、ビルボとゴラムのシーンでしたが、彼の方法は、まるでジャズのミュージシャンのように、自分のプロセスをすべて暴露しながら、様々なことを試していました。それを見て、僕は自分のベンチマークになる人だと感じました。そのぐらい彼の役者魂に賞賛の気持ちを抱きながら撮影に望みました」と答えていました。

新しい映像体験HFR 3D(ハイ・フレーム・レート3D)活用の狙いは劇場に人を呼び戻すため

1秒48コマのHFR 3D(ハイ・フレーム・レート3D)を使った理由とねらいについて聞かれ、ジャクソン監督は、「昔、1927年に、映画に音が付きました。それまでは手回しでカメラを回していたので、フィルムを回すスピードというのは、カメラマンごとの回すスピードで一定ではありませんでした。しかし、サウンドが入るということで一定のスピードにしなくては、音が安定しないという状況にありました。

35ミリフィルムはとても高価かだったため、48ミリフィルが使われました。そうすると音が安定するためです。そして85年間、ずっと使われてきたのです。というのもそのための映写機やカメラが作られてしまったからです。

そういうことで、ずっとそれがスタンダードだったわけですが、近年デジタルシネマになりまして、映写機もカメラも変わりました。それでフレームレートに変えることができるようになったんです。

ハイフレームレイトを使うと、世界にとてもリアリティが出ます。本物の世界により近づけることができるのです。3Dとハイフレームを組み合わせるのは、とてもよいコンビネーションで、まさに本物の世界をみせることができます。

もうひとつは、映画館に行く理由が、今日は難しい。iphoneやipadなどが登場し、どんな映画も見ることができます。ホビットのような大作は、ぜひとも映画館で見て欲しい、こういう大きくてポピュラーなものを作り出して、人々を映画館に呼び戻したい、そういう気持ちもありました」と答え、なごやかに会見は終了しました。『ホビット 思いがけない冒険』は12月14日(金)より公開となります。(取材/文 オライカート昌子)

『ホビット 思いがけない冒険』
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/thehobbitpart1/