『フロントランナー』は、1988年のアメリカ大統領選挙で、随一の有力候補と目され、大統領になるのは確実だと思われたゲイリー・ハート議員の短い栄光と失墜を描いた作品です。主演のヒュー・ジャックマンが来日し、会見を行いました。その模様をレポートします。

ゲイリー・ハート議員とその事件とは

ゲイリー・ハート議員は弁護士出身の政治家で、後にコロラド州選出の上院議員となる。46歳のとき、1984年の大統領選挙に出馬し、注目を集めた。1988年の大統領選挙民主党予備選をを勝ち抜き、フロントランナー(最有力候補)となり、勝利は確実かと思われたが、マイアミ・ヘラルド紙が報じたある”疑惑”が事態を急変させてしまう

会見では、ゲイリー・ハート役のヒュー・ジャックマンさんの登場の前に、パックンことパトリック・ハーランさんが登場し、ゲイリー・ハート事件の衝撃度を語りました。

ゲイリー・ハート議員が若者の心をつかみ、政治家としてどのぐらい注目を集めていたかを熱弁。さらに、この事件が起こる前までは、政治家や大統領が浮気をしても、報道各社は紳士協定をして報道されることはなかったとのこと。

ヒュー・ジャックマン会見レポート

ヒュー・ジャックマンさんが登場すると、会場は熱気にあふれました。「今回はフロントランナーという作品で来日しました。フロントランナーは、必ずや今話し合うべき、そういう議論が生まれる作品になっていくと思います」とあいさつ。

この作品に出演する決め手は? という質問に「大好きなジェイソン・ライトマン監督とぜひとも仕事がしたかったことが一つです。ライトマン監督が描く人物は複雑で白黒はっきりさせません。作品でごとに違ったチャレンジを行うことで見ていてとても感慨深いです。いろいろなか感情を呼び起こす作品を撮り続けている人だと思います」と答えました。

「また、作品出演の決め手になったもう一つの理由は、ストーリーです。とても引き込まれました。フロントランナーは、大統領候補の最有力と目されたゲイリー・ハートが栄光から転落していく三週間を描いています。

私が今まで演じてきた役と全く異なります。ゲイリー・ハートは、謎めいているだけでなく、知性もある。そんな彼を演じることにチャレンジしたかったのです。

この作品を見ると、みんながさまざまな疑問を持つと思いますが、はっきりと答えは提示しない。そこが気に入りました。アメリカだけでなく世界中の人々が”今の時代”だからこそ考えさせてくれている作品になっていると思います」

ゲイリー・ハート議員は、このスキャンダルが発覚するまで、当時の国民の心をつかみ、支持を得ましたが、その一番の理由はなんだと思いますかという質問に、「ゲイリー・ハート議員は、当時も今も理想主義者で、若い人をインスパイアする資質を持っていました。JFKの再来といわれるほど、変革を起こすことができる政治家だと、みんなに思われていました。

彼のもっとも優れていたところは、10年、15年先を見ることができていたことです。彼は1981年当時、まだガレージでコンピューターを作っていたスティーブ・ジョブズと一緒にランチしていました。そして、これからはコンピューターの時代だから、すべての教室にコンピューターを導入しようという発言もしています。

また1983年の、「アメリカは石油に頼りすぎている。今後中東と戦争になりかねない」という発言や、1984年にはソビエト連邦のゴルバチョフにも会っています。そのころレーガン大統領は、宇宙への計画を進めている最中でしたが、冷戦時代は終わり、過激派が中東で生まれると予測していました。さらに2000年には、テロ攻撃を受けるとも言っています。

彼のような人が国のリーダーになっていたら、今と違った世界になっていたと思います。彼は人に愛され、より良い世界を築けた人であったのだと思います」とゲイリー・ハートの先見の明について語りました。

ヒュー・ジャックマンさんはジャーナリズムを専攻なさっていたと聞いています。今はファンに直接インスタなどSNSでメッセージを送っているそうですが、SNSがなかった時代と比べ、ジャーナリズムは変わっているのでしょうか。もし、ゲイリー・ハートの時代にSNSがあったなら、彼はどのように活用したと思いますか、という質問に

「元クリントン大統領の補佐官で現在ジャーナリストとして活躍中のジョージ・ステファノブロスという人が言っていたことがあります。ゲイリー・ハートがスキャンダルを報道されたときは、すでに時代の流れが変わりつつある時だった。今は情報のアクセスに限界がなく、政治家は単なる政治的リーダーとしての理念や理想を語るだけでは十分ではありません。

人から好かれ、共感できる人物を演出しなければならない上、あまりに情報は早く伝わるので、リアルタイムでやり続け判断もしなくてもならない。政治家もジャーナリストにとっても振り返ったり、考え直す時間がない大変な時代となっています。裏側は雑然とした状況です。

もし、あの時代にSNSがあったなら、もちろん受け入れるしかないと思いますが、ゲイリーは、多分気に入らなかったと思いますね。ある時、チームの人がこう言われたそうです。我々がXをやろうといったとき、その時その場では良いことでもホワイトハウスに8年いるつもりの私たちにとって、数年先のその時でも果たして良いことだろうか、と。彼はアメリカだけでなく、世界全体にとっての影響とを考えなければいけないと言っていました」

ヒューさんは、自身もジャーナリストを志したこともあったとのこと。もしかしたら、皆さんのように会見のそちら側に座っていたかもしれないと語りつつ、有望だったゲイリー・ハートに起こったスキャンダルをサスペンスフルに描いて見せる『フロントランナー』を多くの人が見て、今の時代こそ議論して欲しいと熱くアピールしました。

フロントランナー

2019年2月1日(金)全国公開
オフィシャルサイト http://www.frontrunner-movie.jp/