『ドライブアウェイ・ドールズ』映画レビュー 活力と気力たっぷりの華やかロードムービー

友人同士のロマンスは成立するのか。長い友情は堅固だけど、恋人同士となると、荒れる海上のボートのように安定しない場合も多い。ジェイミー(マーガレット・クアリー)とマリアン(ジェラルディン・ビスワナサン)は、女性同士で性格も違う。

『ドライブアウェイ・ドールズ』のジェイミーは、恋人と別れたばかりで、ワンナイト・スタンド(一夜限りの関係)の常習犯。長続きする関係をそれほど求めていない可能性も大きく、恋人関係リスクは、さらに上がる。『ドライブアウェイ・ドールズ』の二人は、ドライブ中を通じて、そのリスクに挑戦していく。

しかし、本当のリスクは別にあって、もっと深刻だ。浮かれ気分でフロリダ・タラハシーまで車の運送(ドライブウェイ)を引き受けたが、その車はギャングが運ぶはずのものだった。だが、彼女たちはそれを知らないし、追われているのにも気づかない。

1999年を舞台に、友情とロマンスとワンナイトスタンドと、追いつ追われつのハチャメチャとイチャイチャが繰り広げられる。ただし、即物的な描写も多く、観客を選ぶ映画なのは、確かだ。

『ドライブアウェイ・ドールズ』は、アカデミー賞受賞監督のコーエン兄弟の弟の方、イーサン・コーエンの初単独監督作品。今回のパートナーは、妻のトリシア・クックで、彼女は製作・脚本も兼ねている。コーエン兄弟の映画様式を期待する方には、注意を喚起しておこう。ブラック風味は、残っているものの、それ以外の口調はかなり違う。

わたしとしては、チャーミングな気力・活力にあふれたジェイミーの男っぽさに心惹かれた。マーガレット・クアリー演じるジェイミーのビジュアルは、女性版ティモシー・シャラメと呼びたいぐらいで、二人に血縁関係がないのが不思議なくらいだ。

マーガレット・クアリーの母は、『恋はデジャ・ブ (1993)』や『フォー・ウェディング(1994)』など90年代を代表する美人女優、アンディ・マクダウェル。マーガレット・クアリーとティモシー・シャラメは、公表されていないだけで、芸能一家の遠縁同士かもしれない。そのぐらい似ている。

一方のマリアンはセクシーな演技をするのが珍しいインド系女優のジェラルディン・ビスワナサン。元気いっぱいのジェイミーに比べて、奥ゆかしさで、映画に落ち着きを与えている。マリアンが、性に目覚める回想シーンは、一転、リリカルでドリーミィ。隣の家の庭でプールに興じるトップレスの女性が目に入った途端に心にパッと花が咲く瞬間が印象的。

ところで、『ドライブアウェイ・ドールズ』には、上院議員役で、マット・デイモンが出演しているのだが、ファンの方にこの映画をお勧めするべきかどうかは、悩みどころだ。やっぱり、あなたがファンなら見ておいた方がいいかもしれない。そのぐらいパンチがある役柄なのだ。

(オライカート昌子)

ドライブアウェイ・ドールズ
配給:パルコ ユニバーサル映画
6月7日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国公開
©2023 Focus Features. LLC.
監督:イーサン・コーエン
脚本・製作:イーサン・コーエン、トリシア・クック
出演:マーガレット・クアリー、ジェラルディン・ヴィスワナサン、ビーニー・フェルドスタイン、コールマン・ドミンゴ、ペドロ・パスカル、ビル・キャンプ、マット・デイモン、マイリー・サイラスほか
85分/アメリカ/ビスタ/2023年/英語/カラー/原題Drive-Away Dolls/字幕翻訳:吉川美奈子/PG-12