「汝自身を知れ」と言うけれど、私たちのほとんどは、そうありたいと思うほど自分のことをよく知らない。自分をよく知っていて、何ができて何ができないかもよくわきまえた人間が目の前にいたら、羨ましく思うより鬱陶しいと思うこともあるだろう。優等生を煙ったく感じるように。
アメコミヒーローの中で、いまいましいほど、できた人間がいるとすれば、キャプテン・アメリカこと、スティーブ・ロジャースしかいない。彼は、曲がったことはしない。自分は正直な人間だ、と真顔で言う。『アベンジャーズ』でも、癪に障るキャラで、そのおかげでリーダーにもなった。
融通がきかない。それこそがスティーブ・ロジャースの個性でもあり、人に愛されるヒー ローであるゆえんだ。彼の人格は、ほぼ完成されている。でもそれは、映画の登場人物としては不都合なことでもある。これでいいのだろうかと悩んだり、欠点を正そうと思うことがないからだ。
アメコミヒーロー映画のメインテーマに、ヒーローがアイデンティティに悩むというのがある。キャプテン・アメリカではそれは使えないテーマだ。映画を作る上では、別の戦略が必要になる。
キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャーでは、危機に陥るのがヒーロー単体だけではなく、組織がまるごと狙われる。物量的アイデアを採用し、映画に面白さを与えようとしている。最初に襲われるのは、アベンジャーズの取りまとめ役でシールド長官のニック・フィリー。シールドが何者かに乗っ取られ,ス ティーブ・ロジャースとブラック・ウィドウの二人も自分たちの組織を相手にして戦わなくてはならなくなる。
黒い衣装を身にまとった敵で、キャプテン・アメリカのダークサイド的印象のウィンター・ソルジャーの存在感も光るが、ロバート・レッドフォードが堂々と登場してくることにも驚かされた。明日に向かって撃て』や『スティング』などで20世紀を代表するスターであり、監督としてもアカデミー賞を受賞している別名アメリカの良心とも称される彼が謎に満ちたシールド幹部としてスクリーンを引き締めている。これぞ最大の秘策だ。
キャプテン・アメリカとブラック・ウィドウは、パワーやスキルや武器はあるけれど、人間離れした特別な何かをを持っているわけではない。映画は、その 一見弱点に見えるポイントをスピードや見せ方を工夫することで彼らを生かし切っている。
キャプテン・アメリカが同僚たちとエレベーターを乗り合わせるところは、コミカルさと緊張感で期待をそそる。エレベーターというのは、映画の中では間奏的な意味合いでよく使われていて、小粒ながら印象的なシーンがいろいろ描かれてきた。キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャーの場合は、こちらは焦らされるだけ焦らされる。キャプテンが反撃するのは最後の最後だ。
だが最後まで見ると、スティーブ・ロジャースの個性が、結局一番心に残る気がする。揺るがないヒーローの姿は、羅針盤のように目指すべき方向を指し示す。そんなキャラクターであることかいつのまにか愛おしくなってくる。 (オライカート昌子)
キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
2014年4月19日(土)2D・3Dロードショー
公式サイト
http://www.marvel-japan.com/movies/captain-america2/