もの凄い映画を見た!!
できるならば、昔ながらの地方の木造映画館で見たい。
背を傾けると椅子がギシギシと音がする、そんな映画館で息を殺して見たい。
いまじゃシネコンが主流だからそんな思いは贅沢かぁ。
『悪魔と夜ふかし』で主人公の顛末を見届ける劇中の観客と
ハラハラを共有できるのになぁ、と思いながら
ワタシは公開3日目の月曜日、下町の映画館で2回目の鑑賞をした。
1977年、ハロウィンの夜。
放送局UBCの深夜のトークバラエティ番組「ナイト・オウルズ」の
司会者ジャックは、生放送のオカルト・ライブショーで
人気低迷を打開しようとしていた。
霊聴やポルターガイストなど怪しげな超常現象が次々と披露されるなか、
この日のメインゲストが登場する。
ベストセラー「悪魔との対話」の著者ジューン博士と
本のモデルとなった悪魔憑きの少女リリー。
視聴率アップのためには手段を選ばないジャック。
テレビ史上初となる“悪魔の生出演”を実現させようと目論む。
視聴率はグングンとウナギのぼり。
生放送を見に来ていたスポンサー夫婦もウハウハ状態。
しかし、番組がクライマックスを迎えたとき思わぬ惨劇が起こってしまう。
この傑作オカルト映画には興味深い点が2つある。
映画『悪魔と夜ふかし』が、
映画『ネットワーク』(1976年)と同じ時代設定であることだ。
そして2作品ともに視聴率低迷のテレビMCの末路を描く物語なのだ。
映画『ネットワーク』では、
ピーター・フィンチ演じるニュースキャスターのハワードの解任が決定し
うつ状態に陥ったハワードは生放送で「番組最終回での自殺」を予告する。
しかし、この前代未聞に視聴率は即座にウナギのぼり!
国民の代弁者として、
「俺はとんでもなく怒っている! こうこれ以上は耐えられない!」と
叫び続けるハワードはやがて預言者として崇められていくが。
ひっくり返るほどオドロクのは、
この映画『ネットワーク』も映画『悪魔と夜ふかし』も
共に舞台となるテレビ局が架空局UBSであることだ。
ここに『悪魔と夜ふかし』監督の遊び心と
映画知識の深さとメッセージがうかがえる。
余談となるが、
映画中で徐々に狂気に蝕まれていくニュースキャスターを演じた
ピーター・フィンチはオスカー主演男優賞ノミネート直後に心不全で急死、
アカデミー賞史上初の死後受賞となった。
もうひとつの興味点もやはり1970年代特有の空気感にある。
ヒッピーのコミューン指導者で犯罪集団マンソン・ファミリーの恐怖。
ニクソン大統領の疑惑を描いた映画『大統領の陰謀』(1976年)、
アメリカ各地で噂されたカルト集団の恐怖を描く映画『悪魔の追跡』(1975年)、
さらに、『帰郷』(1978年)、『ディア・ハンター』(1978年)、
『ローリング・サンダー』(1977年)、『ドッグ・ソルジャー』(1978年)、
『地獄の黙示録』(1979年)、『ヘアー』(1979年)など数多くの
ベトナム戦争への反戦気質と帰還兵の後遺症を描いた名作が誕生し、
悪魔崇拝のカルト集団、1977年のニューヨーク大停電による暴動、暴落まで
ありとあらゆる不安感と不信感、怒りと恐怖が混在した時代。
それが『悪魔と夜ふかし』誕生の一つの要因に違いない。
決定打となったのは、1973年映画『エクソシスト』だろう。
『悪魔と夜ふかし』には、
『エクソシスト』名セリフが何度となく登場するからね。
駄目押しに、現代の不安感を皮肉って
ニクソンとトランプをエンド曲で匂わせるナイスな仕掛けも用意されている。
※11月〜12月に恒例の「午前十時の映画祭」で
前述の『ネットワーク』も上映されるので
ダブルで見るとこれまたサイコーです。
『悪魔と夜ふかし』
10月4日(金)より全国ロードショー
監督・脚本・編集:コリン・ケアンズ、キャメロン・ケアンズ
出演:デヴィッド・ダストマルチャン、ローラ・ゴードン、フェイザル・バジ、
イアン・ブリス、イングリッド・トレリ、リース・アウテーリ
原題:LATE NIGHT WITH THE DEVIL|オーストラリア|カラー|ビスタ|5.1ch|93 分|
字幕翻訳:佐藤恵子|PG-12 配給:ギャガ
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