『サウンド・オブ・フリーダム』映画レビュー 心にともる ささやかな希望の光

あなたは、映画『サウンド・オブ・フリーダム』に、興味があるだろうか? 見ようと思ったことは? 『サウンド・オブ・ブリーダム』には、必見ポイントがある。

まず最初は、メル・ギブソンとのかかわり。本作は、メキシコ人監督、アレハンドロ・モンテベルデ作品だけれど、メル・ギブソンは、製作総指揮として関わっている。映画の風味は今までのメル・ギブソン監督作品そのものに感じられる。

メル・ギブソン監督は、一時は映画界に君臨した。彼の作品には、格別な香りがある。『ブレイブハート』、『パッション』、『アポカリプト』。今まで注目されてこなかった歴史の真実を描く、力のこもった作品群だ。

高潔にして品格がある。興味を持続させ、人を引き付ける力も大きい。隙がなく、完成度が高い。ショッキングだったり、暴力的なシーンがあっても、そこに気高さがある。そのため、底にあるリアリティの灯が、心に直撃してくる。

『サウンド・オブ・フリーダム』には、メル・ギブソン監督印の特徴が息づいている。それだけではなく、どことなく漂う繊細さは、本作の監督、アレハンドロ・モンテベルデの個性なのだろう。

ホンジュラスで父とともにささやかな平和に満ちた生活を送っていた姉弟のロシオとミゲル。ある日、スカウトに来た女性に、あなたたちには才能がある、キッズオーデションを受けないかという誘いがあった。

父ロベルトは、大喜びの娘の願いを聞き入れ、オーデション会場に姉弟を送り届けた。約束の時間に迎えに行くと、そこはもぬけの殻。それが、スタートだ。

一方、アメリカ国土安全保障省で性犯罪組織の摘発にあたっている捜査官ティム(ジム・カヴィーゼル)は、12年間で何百人もの小児性愛者を逮捕してきた。だが、誘拐された子どもたちの行方はわからないまま。ある日、彼は一つの考えを実行に移す。

『サウンド・オブ・ブリーダム』には、潜入捜査中のユーモアもあれば、スリルとともにアクション映画的痛快さもある。優しさと心配りもある。題材から思い起こさせる重たさは控え目だ。そのバランスこそ、『サウンド・オブ・フリーダム』の気品の源に思える。

『サウンド・オブ・ブリーダム』の必見ポイントの2番目は、奇跡的な興行収入が挙げられる。

興行収入をあげるヒット作は、ワーナー、ディズニー、ソニー、ユニバーサルなどの大手配給作品が独占している。そんな中、『サウンド・オブ・ブリーダム』は、2023年アメリカの年間興行10位となった。中小配給会社による、低予算作品としては、類を見ない大成功だ。

2002年以降の全米映画興行記録を見てみると、中小の配給・製作会社で年間トップ10に入っているのは、3作品しかない。2002年のロマンチック・コメディ、『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』、そして2004年のメル・ギブソン監督作品で、イエス・キリストの生涯を描いた、『パッション』、そして今回の『サウンド・オブ・フリーダム』だ。

硬直化した映画業界の中で革命的な役割を果たした、『パッション』と、『サウンド・オブ・フリーダム』は、ともに、ジム・カヴィーゼル主演作。華やかというよりは、実直。スター性というよりは、清廉な存在感。彼が持つ個性は、地味ながら特別なものがある。

人身売買、ペドフィリアが描かれ、元政府職員、ティム・バラードが実際に体験した実話が元になっている。その理由で敬遠するとしたら、もったいない。『サウンド・オブ・フリーダム』には、事実を作品として昇華することで、心に希望をそっとおく力がある。今こそ、真実を知り、目をそらさない勇気が必要なのかもしれない。その勇気は希望とともに、底知れない暗い世界があるとしても、そこに光をともす。

(オライカート昌子)

サウンド・オブ・フリーダム
Ⓒ 2023 SOUND OF FREEDOM MOVIE LLC ALL RIGHTS RESERVED
9月27日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開
配給:ハーク
CAST
ティム・バラード:ジム・カヴィーゼル
バンピロ:ビル・キャンプ
パブロ:エドゥアルド・ベラステーギ
キャサリン:ミラ・ソルヴィノ
ロシオ:クリスタル・アパリチ
ホルヘ:ハビエル・ゴディーノ
ロベルト:ホセ・ズニーガ
STAFF
監督・共同脚本:アレハンドロ・モンテベルデ
共同脚本:ロッド・バール、アレハンドロ・モンテベルデ
製作:エドゥアルド・ベラステーギ
製作総指揮:デイヴ・アダムス、カルロス・アルヴァレス・ベルメヒヨ
メル・ギブソン
撮影:ゴルカ・ゴメス・アンドリュー
音楽:ハビエル・ナバレテ
編集:ブライアン・スコフィールド
プロダクション・デザイン:カルロス・ラグナス
2023年/アメリカ/英語・スペイン語/131分/カラー/5.1chデジタル/スコープサイズ