『SING/シング』映画レビュー

(C)Universal Studios.
 映画にオーディションシーンがある場合、たいていは冷やかしレベルの歌唱やダンスが披露され、審査員が冷たい顔で「次」というのが定番である。しかしアニメーション『SING/シング』は、オーディションシーンからしてパフォーマンスの技量もサービス精神もレベルが高い。カタツムリのパフォーマンスを見よ。この先はいったいどうなる、と思わず身を乗り出さずにいられない。

 主人公はコアラのムーン(マシュー・マコノヒー)。父の贈り物である劇場の運営に行き詰まり、一般人(動物)の歌唱コンテストを仕掛けて起死回生のチャンスを狙う。家事に追われる豚さん主婦、犯罪者一家のゴリラの青年、美声だがはにかみ屋の象の少女、フランク・シナトラ気取りのキザなハツカネズミ、パンクロッカーをめざすヤマアラシのカップル…。流麗な映像による紹介があっという間にすみ、あとは群像劇をじっくり楽しませてもらうことになる。

 おかしいのは、いったんはオーディションに合格させたキリンの背が高すぎて指示が通じないのに業を煮やし、ゴリラ青年にチェンジするムーンのいい加減さ。というよりも、これはゴリラの運の良さの証明か。ショービジネスの世界はかくも運不運に左右されるということが、ちらりとシビアに伝わる。

 実写で十分いけるはずの物語を、アニメーションに仕立てる意義はなにか。そこにあるのは、きっとパフォーマンスとサービス精神向上への並々ならぬ決意である。実写による俳優陣のエゴや限界を排除し、アニメーション・テクニックと実際の歌手の技を最高レベルで合体させる。もう、そんなことが軽々と(ひとまずそう見える)できるようになってしまったのである。

 人それぞれ、贔屓のキャラクターは分かれるだろうが、わたしは豚のロジータ(リース・ウィザースプーン)と、イカサマ賭博師でもあるハツカネズミのマイク(セス・マクファーレン)がお気に入り。ただの主婦ではない、妖艶な歌手に変身した母を観る夫と子供たちの大喝采! ちっこいハツカネズミのアブナイ恋と冒険の小憎らしさ! これぞエンターテインメントである。

 アニメーションによるポイントはまだある。それは、ふとしたことで崩壊してしまうムーンの劇場内部を丹念に描いて見せることだ。大事なものを失ったムーンの落胆は深い。その彼への同情と、登場人物(動物)の未来への意欲がシンクロしたとき、劇場再建への希望が生まれる。再建シーンがまた軽やかで美しい。希望は力を合わせて勝ち取るものという主題が誇らしく輝く。

  生きるということは逃げることではなく世界と渡り合うことであり、気心の知れた仲間とともに自分を高め、解放することである。歌はうまく歌えないが、仲間と楽しく生きることには自信がある。明日はもっと元気になれる、かな。
                               (内海陽子)

SING/シング
監督:ガース・ジェニングス 
出演: マシュー・マコノヒー バスター・ムーン
リース・ウィザースプーン ロジータ
セス・マクファーレン マイク
スカーレット・ヨハンソン アッシュ
ジョン・C・ライリー エディ
タロン・エジャトン ジョニー
トリー・ケリー ミーナ
ニック・クロール グンター
ガース・ジェニングス ミス・クローリー
ジェニファー・ソーンダース ナナ・ヌードルマン
ジェニファー・ハドソン 若いナナ
ピーター・セラフィノウィッツ ビッグ・ダディ
ベック・ベネット ランス
声の出演(日本語吹替版):
内村光良 バスター・ムーン
MISIA ミーナ
長澤まさみ アッシュ
大橋卓弥 ジョニー
斎藤司 グンター
山寺宏一 マイク
坂本真綾 ロジータ
田中真弓 ミス・クローリー
宮野真守 エディ
大地真央 ナナ
石塚運昇 ビッグ・ダディ
谷山紀章 ランス
水樹奈々 ベティ
木村昂 リッキー
村瀬歩 ハウイー
柿原徹也 カイ
重本ことり ウサギ三人組
佐倉綾音 ウサギ三人組
辻美優 ウサギ三人組
河口恭吾 ダニエル
2016年/アメリカ/108分/
配給:東宝東和
公式サイト http://sing-movie.jp/