『ムーンライト』映画レビュー

© 2016 A24 Distribution, LLC
 マイアミのビーチで語られる、愛すべき「ゴースト・ストーリー」である。ココナッツ香るそよ風が感じられて気持ちがよい。そして何よりもムーンライトに照らされて黒光りした、淡くエッジ掛った質感が心地よい。しかしながら、この映画『ムーンライト』は、胸が張り裂けそうなくらい悲しくも美しい黒人少年の物語である。
 
 黒人少年の名前は、シャロン。小柄で特徴ある歩き方から、リトル、またはオカマちゃんと呼ばれているが、シャロンはこれっぽっちも気にしていない。
 
 シャロンの父親はいない。母親は麻薬中毒者で売春婦。母親はヤクが切れたり、その手の客が家にやってくる度、シャロンに冷たい態度を見せる。
 
 そんなシャロンは9歳の時、何かと親身になってくれる黒人男性と出会う。名前はフアン。孤独だったシャロンは次第にフアンを父親のように慕う。しかし、フアンは麻薬の売人だった。フアンは母親にもヤクを売っている麻薬の売人だったのだ。。。

死を予感させる数々のメッセージ

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映画『ムーンライト』は、シャロンの少年期、青年期、そして成人期の3つの時代ごとにエピソードが語られていく。エピソード1は「リトル」、2は「シャロン」、3は「ブラック」というふうにタイトル付けされて。。。
 
 それぞれのエピソードの終わりには、青と赤色の点滅が画面に浮かぶ。それはまるで浮遊する魂のように儚く、それはまるで心臓の鼓動のように規則的に点滅してはフワ〜っと音もなく消えていく。

 冒頭、「ゴースト・ストーリー」であると紹介したのはそこにある。まず、フアンが何ら説明もなく物語から消えていく。映画ではフアンの「死」の場面が描かれていないのでその不可解な死の謎に私たちは戸惑ってしてしまうかもしれない。が、映画『ムーンライト』の醍醐味はそこにある。

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映画を見終わって、はたと感じるはずだ。映画の中に漂うフシギな空気感と何気ないシーンに、多くの「死の予感」が隠されていることを。。。

●フアンに海で洗礼を受ける9歳シャロンの表情。
●フアンが少年シャロンに言う、「ドアに背を向けて座るな」の意味。
●黒人はムーンライトの下ではブルーに見えるというキューバの言い伝え。
●成人シャロンがダッシュボードから手にした拳銃のその後。
●麻薬中毒で再起不能にみえた母親が、更生ホームで見せた笑顔と涙。
●ジュークボックスから流れる、名曲『ハロー・ストレンジャー』の歌詞。
●そして、そうした場面をかき消すように奏でられるヴァイオリンの音。

フアン同様、シャロンも劇中、どこかで命を落としたのかもしれない。母親も然り。感じ方によっては他の登場人物もどこかのエピソードで死を迎えたのかもしれない。そんな思いを映画『ムーンライト』は感じさせる。

ラスト、天使の羽を見逃すな!

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『ムーンライト』を製作したのは、ブラッド・ピットが立ち上げた映画製作会社「プランBエンターテインメント」。
 
 同社は、『それでも夜は明ける』(13)に続いて、『グローリー 明日への行進』(14)でも黒人が抱える問題を描いた。前者ではアメリカの奴隷時代を、後者ではアメリカ公民権運動をわかりやすく取り上げてきた。
 
それに続く、『ムーンライト』は現代黒人社会の一端を描いたものなのだろうか。偶然この3作品とも黒人監督によるものなので、短絡的だがブラッド・ピット印の黒人三部作と呼びたくもなる。
 
 まあ、前2作品は史実なのに対し、『ムーンライト』はオリジナル作なので三部作なんてことは断じてないが、『ムーンライト』は先の2作品以上の映画的興奮と衝撃的余韻を孕んだ傑作だと断言する。

 それは、次のようなマスコミの賞賛からも明らかだ。

革新的! 目からウロコが落ちる。
これほど美しい映画が、これから出てくることはないだろう。(NYタイムズ紙)

文句なしの傑作! この映画を見終わって映画館を出る時には、
人生が変わっている。(ローリングストーン誌)

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映画館を出た後も、ずっと心に残って、そして人生を変える、
これこそ芸術作品。(プレイリスト)

見終わった後、自分が周りの人たちへの接し方に影響する。
この映画にもうこれ以上望むことはないくらい完璧。(タイム誌)

ラストシーンに震える! ムーンライトに照らされた少年の背に天使の羽が
見えるか、見えないか。私にはハッキリとそれが見えた。(トップムービー)

 最後の賛辞は超一級誌に紛れ込んでお恥ずかしい限りだが、もう一度言わせてください。
 天使の羽を見逃さないでほしい!
 そして主人公シャロンの運命を想像してほしい!

武茂孝志

ムーンライト
3月31日(金)、TOHOシネマズシャンテ他にて全国公開
配給:ファントム・フィルム