ベスト10というのは、いわゆる優秀作品を客観的に選ぶのが王道とされているが、客観的とはなんだろう。映画は感情に大きく訴えるから、選ぶ者の生きかたや体験、その時点での思考に左右されないはずがない。今年は“ひとり”と“死”について思いをめぐらせたせいか、特に外国映画に“ひとり”である覚悟とその悲しみが胸に迫る作品が並んだ。ひとりひとりがわたしの身内である。
日本映画
1位 映画「深夜食堂」
「架空の町のような“新宿”の飯屋に集う人々と、彼らを見守るマスター、小林薫の独特のぬくもり。テレビ版から出発し、間口をぐっと広げた松岡錠司監督のこだわりに敬意を表したい」
2位 海街diary
「鎌倉の古い家に住む四人姉妹の個性が丹念に描かれ、この世のものとは思えない清涼な風に包まれる。名匠・成瀬巳喜男を強く意識したと思われる是枝裕和監督の語り口に魅了される」
3位 駆込み女と駆出し男
「江戸時代の駆込み寺に駆込んだ女たちの事情を知り、狂言回しを務める駆出し男、大泉洋の軽さを堪能する群像劇。時代もののきらびやかさを追求した原田真人監督の野心が頼もしい」
4位 先生と迷い猫
「頑固者の元校長と町を闊歩する野良猫との交流。邪慳にした猫が来なくなって慌てる元校長、イッセー尾形から目が離せない。失踪した猫によって結ばれ、広がる人と人の縁が美しい」
5位 岸辺の旅
「軽い風情で現れた夫、浅野忠信の幽霊と一緒に、彼の未練の後始末の旅に出る妻、深津絵里。蒼ざめた空気とそこはかとなく漂うユーモアに心くすぐられる。黒沢清監督一流の恐怖映像がいくつもあり、怖いもの見たさの欲求も満たされる。見えなくても亡き人はそばにいるという実感を伴うロードムービー」
外国映画
1位 あの日のように抱きしめて
「ナチスの強制収容所から生還した女性(ニーナ・ホス)と再会した夫は彼女が妻と分からず、妻を演じてくれと依頼する。確かな愛を求めて彼に従ったヒロインがたどり着いた境地とは。ラストの歌『スピーク・ロウ』が絶品」
2位 アメリカン・スナイパー
「辣腕スナイパー(ブラッドリー・クーパー)にピタリと寄り添い、その激しい鼓動を聴く。戦争は戦場を越え、一見平和な世界にも恐ろしい影を落とす。戦争で病んだ者を救うことはできるのか、というテーマが静かに横たわる」
3位 誘拐の掟
「元警察官の探偵(リーアム・ニーソン)が、麻薬密売人の家族や恋人を狙った残忍な連続誘拐事件にかかわる。相棒になる黒人の少年との自立した関係を交えながら、ニーソンの抑えの効いた演技が全編を引き締める。一連の“闘う親父もの”とは一線を画す、孤独な男の葛藤がまことにエレガントだ」
4位 おみおくりの作法
「孤独死した人々の後始末をする几帳面な民生係(エディ・マーサン)が最後の仕事に懸命に挑む。自分の人生を諦めたような彼の日常と反対に、いささか偏執的にも見える弔いかたが次第に深い共感を呼ぶ。“好事魔多し”とつぶやかざるをえない出来事、そこから続くエンディングに胸がしぼられるようだ」
5位 ハッピーエンドの選び方
「のどかな老人ホームを舞台に、みずから死を選べる方法を考案した男が妻の選ぶハッピーエンドに付き添うはめに陥る。わるい冗談のような出来事がドライに描かれ、生きることの厳しさと見守る心の価値が明解に示される」
(選/文 内海陽子)