
おしゃれでミステリアス。ときに混乱、少し危険な香り。ちょっと哲学的。今までにない刺激。それをエンターテイメントとしても成立させるのはA24製作映画のお家芸だ。映画『テレビの中に入りたい』はそのテイストが濃厚だ。
1990年代のアメリカ郊外の町。平和でのどかで、とりたてて問題はないエリア。中1の男子、オーウェン(ジャスティス・スミス)は寝る時間が決まっていて、見たいテレビ番組を見ることができない。それが一番の悩みだった。そのテレビドラマのタイトルは「ピンク・オペーク(ピンクの混沌)」、何度もCMを目にして、見たい気持ちが募っていた。
「ピンク・オペーク(ピンクの混沌)」をようやく見ることができたのは、母が大統領選挙のために夜の学校へ行くのについて行って、そこでマディ(ジャック・ヘヴン)に出会ったおかげだ。念願のドラマを見たことで、オーウェンの生活はどう変わるのか。実はそんなに変わらない。だが観客の方は、不思議な世界へと招き入れられることになる。そのバランスに妙味がある。
90年代には、スマホがなく配信もなかったことを改めて思い出した。それを郷愁としてみるか、寂しさとしてみるか。スマホやyoutubeや配信の代わりは、仲間と出会い、悪ふざけをしたりする集いだった。仲間がいなくて孤独で寂しかったら、テレビか本しかない。
今はスマホもあるし配信もあるけれど、孤独や心の奥底に憤懣を抱えていたら、それだけでは紛らわせないのを、単に忘れているだけかもしれない。『テレビの中に入りたい』は、普段の生活で、あまり思い出したくないけれど、貴重な自分の心に秘めた思いを同時に引き出してくれる。それはちょっと危険かもしれないけれど。
主要登場人物の二人を演じるジャスティス・スミスとジャック・ヘヴンの存在感と演技が忘れがたい。それを引き出し、色調やストーリーの個性が独特なジェーン・シェーンブルン監督の才に注目。
テレビの中に入りたい
9月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
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監督&脚本:ジェーン・シェーンブルン(『We’re All Going to the World’s Fair(原題)』)
キャスト:ジャスティス・スミス(『名探偵ピカチュウ』)、ジャック・ヘヴン(『ダウンサイズ』)、ヘレナ・ハワード、リンジー・ジョーダン(スネイルメイル) 共同製作:Fruit Tree(エマ・ストーン制作会社、『リアル・ペイン〜心の旅〜』)
尺:100 分 レーティング: PG12
公式サイト:a24jp.com Xアカウント:@A24HPS
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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