海外の映画祭で喝采を浴び日本公開が待たれるピカピカの新作や、
お気に入り監督の気になる最新作、また、作家性にあふれる野心作。
恒例の東京フィルメックスが第25回を迎える。
会期は、11月23日(土)〜12月1日(日)。
会場は、有楽町・銀座エリア
部門は、アジア新鋭監督たち10作品による「コンペティション」、
著名監督たちとびきりの新作11本による「特別招待作品」、
世界に向けて日本の新作4作品を紹介する「メイド・イン・ジャパン」、
これまでフィルメックスで紹介された500以上の作品の中から
厳選した映画6本を上映する「東京フィルメックス25周年の軌跡」。
まだ日本では知られないペマ・ツェテン監督の大傑作『轢き殺された羊』や
ビー・ガン監督のこれまた大傑作『ロングデイズ・ジャーニー
この夜の涯てへ』のカンヌ国際映画祭バージョン、さらにジャ・ジャンクー、
ホン・サンスといった日本にも数多いファンを持つ監督の最新作を上映して
くれるフィルメックス映画祭。
今回は、その「特別招待作品」11本をご紹介する。
ちなみに、『Caught by the Tides(英題)』はオープニング作品、
『スユチョン』(写真)はクロージング作品となる。
『Caught by the Tides(英題)』Caught by the Tides
中国 / 2024 / 111分
監督:ジャ・ジャンクー
配給:ビターズ・エンド
ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであるチャオ・タオ演じる一人の女性の人生の約20年間を、彼女の元を去った一人の男性との関係を軸に描いた作品。女性の感傷的な苦難と、時の経過と共に彼女の自立が深まっていく姿が捉えられている。冒頭の場面は2001年頃に撮影。映画の終盤に主人公たちが再び大同市に戻る頃には、この古い炭鉱都市が未来への可能性に開かれた完全に別の世界になっているのが印象的だ。ポップ、ディスコ、伝統音楽等のサウンドトラックに支えられた流動的な編集も魅力のひとつ。カンヌ映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映された。
『スユチョン』By the Stream
韓国 / 2024 / 111分
監督:ホン・サンス
ソウルの女子美術大学を舞台にしたこの映画は、もうそれほど若くはない大学講師のジョンイムが、かつてはその分野で有名だった叔父のチュ・シオンに大学の演劇祭で学部の学生たちの寸劇を演出させようと大学に招聘するところから始まる。演劇祭への準備が始まり、その過程でシオンはジョンイムの上司で彼の大ファンである女性教授チョンと親しくなっていく……。登場人物たちが食事をし、酒を酌み交わす場面で重要なことが示唆されることが多いホン作品だが、この作品もその例に漏れず、川沿いにある鰻料理店で多くの進展や転回が起こる。ロカルノ映画祭のコンペティション部門で上映され、主演のキム・ミニが最優秀演技賞を受賞した。
『ブルー・サン・パレス』Blue Sun Palace
アメリカ / 2024 / 116分
監督:コンスタンス・ツァン
ニューヨークのクイーンズの中国式マッサージ店に住み込みで働くエイミーとディディ。彼女たちはディディの幼い娘が叔母と暮らしているボルチモアで一緒にレストランを開くことを夢見ながら、強固な姉妹的関係を築いている。一方、ディディは建設作業員として働きながら台湾の家族に送金している中年男性のチュンと付き合い始めており、彼と一緒に暮らすことも望むようになる。沈黙が何よりも雄弁に物語を語り、移民であることの孤独、そしてかつて故郷と呼んでいた場所から遠く離れた時に家族やコミュニティのような存在がどれだけの意味を持つかを静かに訴えかけている。カンヌ映画祭の批評家週間で上映され、フレンチ・タッチ賞を受賞した。
『愛の名の下に』Mistress Dispeller
中国、アメリカ / 2024 / 94分
監督:エリザベス・ロー
このドキュメンタリー作品では、プロの別れさせ屋の介在を通して、ある中年夫婦と若い女性の三角関係があらゆる角度から精査されるというもの。『ストレイ 犬が見た世界』(2020年製作)で知られる香港系アメリカ人監督エリザベス・ローの長編2作目。ベネチア映画祭のオリゾンティ部門で上映され、アジア映画を対象としたNETPAC賞を受賞した。
『ポル・ポトとの会合』Meeting with Pol Pot
フランス、カンボジア、台湾、カタール、トルコ / 2024 / 112分
監督:リティ・パン
ジャーナリストのエリザベス・ベッカーが学者のマルコム・コールドウェルとジャーナリストのリチャード・ダッドマンと共に1978年にプノンペンを訪れた時の記録『When the War Was Over』を大まかに脚色したこの物語は、ポル・ポトとの独占インタビューを前に、3人が役人たちによる厳密な統制下で、政策の施行現場を巡る様子を追う。色褪せたアーカイブ映像や写真、そして部分的に土人形劇を劇映画に組み合わせることで、リティ・パンは事実に基づくこの架空の物語を長く記憶に残る誠実な作品に仕立て上げている。カンヌ映画祭のカンヌ・プレミア部門で初上映された。
『無所住』Abiding Nowhere
台湾、アメリカ / 2024 / 79分
監督:ツァイ・ミンリャン
マレーシア出身の台湾の巨匠ツァイ・ミンリャンの演出、リー・カンションの主演による「行者(Walker)」シリーズの第10作目。9作目の『何処』に続き、Anong Houngheangsyも出演している。スミソニアン国立アジア美術館の委託を受けて制作された作品で、同美術館のあるワシントンDCの街やフリーア美術館を舞台に、有名な文学作品『西遊記』の着想源となった7世紀の仏僧玄奘(Xuanzang)の中国からインドへと至る巡礼の旅からインスパイアされた、非常にゆっくりとした修行僧の歩みが捉えられている。ベルリン映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門で世界初上映された。
『何処』Where
台湾 / 2022 / 91分
監督:ツァイ・ミンリャン
2022年11月から2023年1月にかけてパリのポンピドゥー・センターにて開催されたツァイ・ミンリャン監督の全面的なレトロスペクティブと展覧会「Une Quête」に合わせて制作された「行者(Walker)」シリーズの第9作。『日子』(2020)に出演していたAnong Houngheuangsyが行者役のリー・カンションと共に主演しており、パリの賑やかな街で行者と出会う自分自身を演じている。
『未完成の映画』An Unfinished Film
シンガポール、ドイツ / 2024 / 107分
監督:ロウ・イエ
2019年、10年間電源が入っていなかったコンピューターが起動される場面から始まる本作は、未完に終わったクィア映画を完成させるために再集結した映画制作チームを描いたドキュフィクション作品。映画制作の過程とパンデミックを生き抜く過程が、感染拡大で制作が中断し、全員がホテルで隔離されるという場面で結び付けられる。そこからフィクションと現実の境界が更に曖昧になっていくが、それでも溢れ出る真摯さや真実味こそがこの作品の真骨頂だろう。カンヌ映画祭にて特別上映作品として上映された。
『スホ』Sujo
メキシコ、アメリカ、フランス / 2024 / 125分
監督:アストリッド・ロンデロ&フェルナンダ・バラデス
麻薬取引の温床であるミチョアカン州の田舎で、シカリオ(殺し屋)の父のもとに生まれたスホは4歳で孤児になる。人里離れた丘の上に住む叔母ネメシアは、カルテルの掟によって命を狙われることになった幼いスホを匿い、彼女と姉妹的な関係にある友人ロザリアと、その2人の息子だけを伴って彼は育てられる。成長するにつれ、彼は親から引き継いだ血まみれの遺産について知るようになるが……。リアリズムと抒情性を効果的に融合させながら、カルテルの暗躍を背景にした暴力と世代間のトラウマが巧みな脚本によって描かれている。アストリッド・ロンデロとフェルナンダ・バラデスの映画作家デュオによる『息子の面影』(2020)に続く長編作品。前作に続き、本作もサンダンス映画祭で上映され、見事審査員特別賞を受賞した。
『地獄に落ちた者たち』The Damned
イタリア、ベルギー、アメリカ、カナダ / 2024 / 89分
監督:ロベルト・ミネルヴィーニ
1862年、北軍の志願兵部隊が北西部の辺境を偵察する任務を与えられる。彼らは、若者、年配者、神を恐れる者、神を恐れない者など、あらゆる階層の多様な集団。彼らの多くに共通しているのは、銃を撃った経験が殆どなく、ましてや人を殺したことなどないということだ。これまで20年以上に渡ってアメリカの見過ごされてきた辺境を描き続けてきたイタリア出身の映画監督ロベルト・ミネルヴィーニが、同国の南北戦争に目を向けた最新作。アメリカという国のアイデンティティを形作ってきた信仰、夢や希望、階級、そしてコミュニティといった要素が、これまでのミネルヴィーニの作品と同様に、この時代劇でも少し形を変えて探求されている。カンヌ映画祭のある視点部門で初上映され、同部門で監督賞を受賞した。
『ザ・ゲスイドウズ』The GESUIDOUZ
日本 / 2024 / 93分
監督:宇賀那健一
配給:ライツキューブ
鳴かず飛ばずのバンド「ザ・ゲスイドウズ」でボーカルを務める26歳のハナコ。一向に売れる気配のない彼らの体たらくを見かねた彼らのマネージャーは、厄介払いを兼ねて、移住支援制度を活用して彼らを田舎へと送り込もうとする。パンク音楽とホラー映画にオマージュを捧げる本作は、アキ・カウリスマキ監督の「レニングラード・カウボーイズ」シリーズを彷彿とさせる。だが、この作品が私たち観客の心を最終的に震わせるのだとすれば、それはジャンルを問わず、あらゆるポップ・カルチャーの持つある種の本質をこの作品が正確に突いているからだろう。トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネス部門でワールドプレミア上映された。