まずは、映画の内容から紹介しましょう。

妻のローラ、そして幼いふたりの子供たちと、幸せに暮らしていたオリヴィエ。

ところが、ある日突然、ローラが家を出て行ってしまう。

オンライン販売の倉庫でリーダーとして働きながら、慣れない家事に追われるオリヴィエ。

なぜ妻は家を出たのか。

妻を捜し続ける彼のもとに、フランスの北部の村から一通の絵ハガキが届く。

果たして妻は、帰ってくるのか。

オリヴィエと子供たちが辿り着いた答えとは。。。

日本公開を前に来日したギヨーム・セネズ監督に根掘り葉掘りうかがった。


シンプルな物語でしたが、あれこれと深読みを誘う映画でした。

オープニング、朝焼けの静けさから、耳をすますと様々な音を感じました。

遠くのハイウェイの音、かすかに聞こえるサイレンの音、幻聴のように繰り返される波の音、、、

監督「その部分をコメントしてくれたのは、あなたが初めてです。

私のように自然主義の映画作家にとって、音響効果はとてもセンシティブな問題なのです。そうした細かい音のバランスがいちばん難しい作業でした。

大きな音を出してしまうと、それだけで画面に意味をもたせてしまう。

それだけは避けたかったのです。それに気づいてくれてありがとう」

「予感」として、私個人の捉え方ですが、妻が消えてしまったのは、「死」のイメージが強かった。なにやらパリの同時多発テロの予感を感じましたが。。。

監督「この映画のキモは、説明しすぎないこと。

観客が自己投影して自由に想像して欲しいのです。

テロ、死、そうしたことを想像する人もいるでしょう。

妻はうつ病で亡くなったんじゃないか、

あるいは他に男がいて出て行ったとか。。。

だから、個々の状況で想像できる余地を残しています」

たしかに、様々な読みができますね。

監督「ただ、妻が家を出ていってしまうというのは、テーマだけでもハードなこと。だからある意味、どこかで和らげるというか、消化させる必要があるので劇中に、『妻から絵ハガキが届く』という要素が出てくるのです」

はい。

「あれはシナリオ上、彼女は生きていることを唯一示す手掛かりとして登場させました。もちろん、死を連想する人もいるとは思いますが、あの絵ハガキによって、妻が戻ってくるのではないかというチョイスも観客に与えられるわけです」

あの時点で、、、、こうも思いました。子供たちを安心させるために夫のオリヴィエが書いた絵ハガキか。。。。ところが、、、、、

監督「それはこれからご覧になる観客のために、私の考えは伏せておきましょう(笑)。メラニー・ロラン主演の『マイ・ファミリー 遠い絆』(2006年)にはそれに似たシーンが出てきますが」

見かけはシンプルだけど、家族構成もかなり深読みさせますね。

監督が、ここがポイント! とおっしゃったワンシーン。

深夜、オリヴィエと妹が台所でダンスをする場面。

あそこで流れるミシェル・ベルジェの「白い天国」!

映画を見た後、歌詞を調べてみたら、死者の魂をしずめるための歌、

つまり鎮魂歌のような内容でした。

「なんら希望も持てない、冷え切った文明社会を捨てて、新天地に向かおう」といった具合。新天地とは南極。そこが白い天国という意味ですか。

監督「私があの曲を選んだのは、歌詞の内容というよりは、フランス語圏において大ヒットした曲であったこと。日本ではあまり知られていないけど、フランス語圏ではみんな知っている曲なのです。

みんな、あの曲にはなにがしかの思い出や体験がある。だからチョイスした。深夜、ダンスする兄妹に何も交わす言葉がないので、共通要素のある『白い天国』に身を委ねる。観客はそのシーンに何を見るか、というわけです」

なるほど、ね。

監督「ちなみにベルジェの歌う『白い天国』とは、白い粉、コカインのことなのです」

なにーっ。道理でヘンテコな歌詞だと思った。

監督「ときにスムーズに、ときに噛み合わない歌詞だったでしょ」

この曲がヨーロッパを席巻した時(1990年)、監督は12歳でしたね。

こっそり調べて来ました。

監督「そうだ、そのくらいでしたね。歌謡曲は少し軽視されることがあるけど、この曲はみんなに敬愛されていました」

歌手ベルジェが亡くなったのが、大ヒットの2年後ですね。

享年45。なにやらここにも予感らしきものがある。

映画では、オリヴィエの父親も早死にしている。

これまた謎というか、映画と妙に重なりを見せますね。

監督「その辺もあえて父親のことは説明なしでぼかしている。

要はなぜ早死にしたのかに触れていない。これは、不在によって逆に存在感が生まれることを基調にしているからで、消えた妻ローラも同様です。

妻が消えた理由がなかなか明かされないように、父親もホントは何でいなくなったのか、わからないのです」

興味本位な質問ばかりで申し訳ありませんが、兄妹のダンスシーンを見ていると、あれ? もしかしたらこのふたりは腹違いの兄妹なのかなと思わせる節がありますね。

監督「ノン。それは違うね。残念でした(笑)。あの家族で重要なのは、兄と妹は全く同じ家庭環境で、全く同じ躾をされて育ったのに、それぞれ全く違う家族形態を成しているということ。

でも、母親と娘の場面を描いてないので、なるほどそう見られるかもね。

それにしてもアンタ、あれこれ深読みしてくるね〜(笑)」

いやいや、ふたりのあの踊り方を見たら日本人は皆、「あっ、これは異母兄弟だな」と思うはずですよ。

監督「。。。。。。」

プレス資料によると、役者にはシチュエーションのみ伝えて演じさせたとありますが、アドリブが多かったということですか。

監督「セリフはあらかじめ用意していました。すべて書いてはあるんです。

それを役者に与えないという演出なのです」

はぁ? 。。。。。。。

監督「まずは、その場で第1回目の即興をやってもらう。そこから余計なものをどんどん捨てていく。あるいは指示を与えていきながらあらかじめ私が用意していたテキストに行きつくように導いていく。

全員が参加して、集団作業で作り上げていく、シナリオに近づいていくというのが私の演出スタイルなのです」

かなり独特で根気のいる映画作りですね。

ギヨーム監督の長編デビュー作『Keeper』(2015年)は、残念ながら日本では未公開ですが、同じ演出法なのですか?

監督「高校生の妊娠に焦点を当てた映画ですが、全く同じスタイルで演出しました。以前、河瀬直美さんがやっておられる奈良の映画祭に選ばれそうになったけど、残念ながら上映には至らなかった過去があります」

トロントやロカルノなど70を超える映画祭に招待され、20以上の賞を獲得した映画なんですね。

『パパは奮闘中!』公開を機に今後公開されるといいですね。

監督「字幕さえ入れてくれれば、『パパは奮闘中!』とカップリングでDVDにして欲しいなぁ」

インタビューの残り時間があと5分あるので、いま一度劇中に流れる「白い天国」についてお話をさせてください。

この『パパは奮闘中!』がパリで公開されたのが、昨年2018年10月3日。

それに先立ち、カンヌ映画祭でワールドプレミアされたのが、同年5月13日。

そのわずか4ヶ月前の1月7日に歌手ベルジェの妻だったフランス・ギャルが

亡くなっています。

ね、ますます深読みしたくなる不思議な運命を感じてしまうでしょ。

フランス・ギャルといえば、日本でも「夢みるシャンソン人形」(1965年)で一世を風靡しました。

監督「思い出しました。彼女が、『白い天国』の著作権の管理者だったので、亡くなったことによって作業が大変でした」

ほーら、不思議な巡り合わせで完成した、映画『パパは奮闘中!』。

私にはこの映画は、やはり、鎮魂歌として映った。

だから、ラストの一場面は墓標のようだった。

墓石に様々なメッセージが書かれて墓標となる。

そんなイメージ。

監督は、「面白い分析ですね」とはぐらかしたけど、皆さんにはどう映るか。

そこに原題が被さる。

訳して、「私たちの闘い」。

このインタビューをまとめている時、テレビではノートルダム大聖堂の再建を伝えるニュースが流れていた。

広がる支援。

マクロン大統領は、5年以内に再建すると、国民に結束を呼びかけている。

5年後といえばパリ五輪の開催年。

この映画は、迷走するEUフランスの希望を描いている。

(文/取材 武茂孝志

パパは奮闘中!

4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma

2018年 カンヌ国際映画祭 批評家週間 出品

2018年 トリノ映画祭 観客賞、Interfedi賞 受賞

2018年 ハンブルグ国際映画祭 批評家賞 受賞

2019年 ベルギーアカデミー賞(マグリット賞)作品賞、監督賞 含む5部門受賞

2019年 セザール賞 最優秀男優賞、外国映画賞 ノミネート

監督・脚本:ギヨーム・セネズ 共同脚本:ラファエル・デプレシャン

出演:ロマン・デュリス『タイピスト!』『モリエール 恋こそ喜劇』レティシア・ドッシュ『若い女』、ロール・カラミー『バツイチは恋のはじまり』、バジル・グランバーガー、レナ・ジェラルド・ボス、ルーシー・ドゥベイ

原題:Nos Batailles/ベルギー・フランス/2018年/99分/フランス語/字幕:丸山垂穂

配給・宣伝:セテラ・インターナショナル 宣伝協力:テレザ 、ポイントセット

協賛:ベルギー王国フランス語共同体政府国際交流振興庁(WBI)

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