マーベルコミックスから新たな必見映画が誕生した。神失格の男が地上に降りてくる『マイティ・ソー』だ。監督は、シェークスピア作品の俳優・監督として定評があるケネス・ブラナー。おのずと格調高い作品となることは必至だ。かといって、小難しい作品であるわけでもない。主人公が神であろうと、そこはアメコミ映画のヒーロー、夏の暑さを吹き飛ばすパワフル作品となった。
北欧神話が元ネタといっても、CGで作った仮想世界だけが舞台なのではなく、地球の場面が案外大事だ。話の発端も地球。それも大都市ではなく、西部劇の舞台がそのまま現代になったような砂漠の真ん中の小さな町でストーリーが進む。神が、ひなびた小さな町に落ちる。ミスマッチなところが面白い。
行動のミスマッチも楽しい。ちょっと前まで権力と自信の絶頂にあった元神は、田舎の埃だらけの道沿いのペット屋に入ると、信じがたいものを要求したりする。大昔の北欧でしか通用しないような方法で、コーヒーのお代わりも欲しがる。
そのあたりのおかしさだけでも、この映画の満足度はかなり高くなるだろう。なぜって、だれでも横柄で傲慢だった人間が、ひどい目にあったりすると嬉しかったりするから。面白がっているうちにだんだん元神に感情移入させられ、応援したくなってくる。そのあたりの脚本は上手い。
それでもこの映画の一番のみどころは、なんといっても名優勢ぞろいのエネルギーだろう。働き通しのナタリー・ポートマンは、彼女にしかできない方法で、作品にリアリティをもたらす。高い集中度で役柄に完璧に純化できる力を見せつけてくれる。
ハリウッド映画初出演の浅野忠信の貢献度はさすが。そして、ソーの父オーディンを演じるアンソニー・ホプキンスがかもし出す本物の本気度は、映画全体を迫力で覆う。そのおかげで、見ているわたしたちの疲れを吹き飛ばすほどのエネルギッシュな作品となったと思う。
主人公のソーを演じる新人、クリス・ヘムズワースについて一言。見ていて誰かに似ている、と思ったのだが、しばらくそれが誰だかわからなかった。後で考えてみると、同じオーストラリア出身で今は亡き、ヒース・レジャーだ。まだ若くてチャーミングだったころの。そう思うのは私だけかもしれないが。(オライカート昌子)
・『マイティ・ソー』オフィシャルサイト
・2011年7月2日(土) 丸の内ルーブルほか全国超拡大ロードショー
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