©2014 PIE FILMS/2-TEAM PRODUCTIONS/PALLAS FILM/TWENTY TWENTY VISION.

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 みずからの死をコントロールしたいと願うのは傲慢なのだろうか。ヨーロッパの価値観を調査すると、信心深い人は安楽死に否定的だそうだ。わたしは信心深くないせいか、安楽死肯定派である。個人的なことだが、認知症になったことを恥じた亡き母が「もう死んでしまいたい」と食卓に突っ伏す姿を何度も見たからであり、母がいくら死にたいと願っても自死することはできない状態になったことに、娘として何とも言えない苦痛を覚えたからである。

 とシリアスな書き出しになったが、この映画は非常にユーモラスで楽しく示唆に富んでいる。イスラエルのエルサレムにある老人ホームで妻レバーナ(レバーナ・フィンケルシュタイン)と暮らすヨヘスケル(ゼーブ・リバシュ)は発明好きで、さまざまな工夫をして妻や入所者を励ましている。ある日、末期がんの友人から「楽になりたい」と言われ、当人がスイッチを押して死を迎える装置を作りあげる。元獣医のドクターが薬を用意し、その恋人の元警官が証拠隠滅を図るという段取りだ。妻は大反対だったが、計画は実行に移された。

 秘密のはずのそれが評判になり、ヨヘスケルたちのもとへ装置を使いたいという希望者が次々にやってくる。そうこうするうち、レバーナの認知症の症状が顕著になる。何を着て行けばいいのかわからなくなり、ホームの食事の場に裸で現れたレバーナを見て、ヨヘスケルは愕然とする。正気に戻った妻は自らの行動を恥じ、将来をはかなみ、やがて彼の装置を使いたいと言い出した。

 ふだんはソフトでチャーミングなレバーナが、孫娘と得意料理をするつもりが正気を失い、際限なく卵を割ったり、ゴミ箱に捨てられた食べ物を漁ったりする。その呆けた表情が悲しいほどにすばらしく胸に突き刺さる。呆けたわが母をしみじみ思い起こす演技を映画で見たのは初めてである。

 入所仲間のそれぞれの描写もきめ細かく、老いのさまざまな側面がうかがえて興味が尽きない。ゲイカップルであるドクターと元警官のベッドシーンがあり、従来なら避けて通る老い&ゲイの性=心理がほどよい調子で描かれる。装置の使用者から料金を取りたてていた元警官の合理性と俗物性にも触れる。

 監督・脚本のシャロン・マイモンとタル・グラニットは40代の精鋭。シリアスなテーマに挑みつつも硬直した観念論に陥らず、人間の豊かさから生まれる情けや滑稽味をみごとなバランス感覚でつづる手腕には舌を巻く。こういう若い世代が存在することに心が晴れ晴れとする。

 わたしが最も好きなシーンは、人前で裸になったことを気に病むレバーナを励ますため、深夜、仲間が全員ヌードになってはしゃぐシーンである。人を救うことはできないが、心を軽くしてあげることはできそうだ。そのヒントがぎっしり詰まった快作である。                   (内海陽子)

ハッピーエンドの選び方   
2014年イスラエル/カラー/93分/ 出演:ゼーブ・リバシュ、レバーナ・フィンケルシュタイン、アリサ・ローゼン、イラン・ダール、ラファエル・タボール/
脚本・監督:シャロン・マイモン、タル・グラニット
11月28日、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー!
公式サイト http://happyend.asmik-ace.co.jp