『犬ケ島』映画レビュー

『犬ケ島』の寿司職人シーンは物語のキーポイントになっているだけでなく、格別
『犬ケ島』はウェス・アンダーソン監督の新作ストップモーションアニメーション映画で、ファンタジックでマジカルな映像が好きな人、そして犬が好きな人はもちろん、ペットと特別な関係を築いている人には特に見逃せない作品だ。

ウェス・アンダーソン監督は、シンメトリーを駆使したカラフルでレトロな映画世界を作る。細かいところまで神経が行き届いた独特な絵作りでファンも多い。

『グランド・ブタペスト・ホテル』でゴールデングローブ賞作品賞に輝いたのをはじめ、数々の賞のノミネートの常連だ。『犬ケ島』も第68回ベルリン国際映画祭のオープニングを飾り、銀熊賞(監督賞)を受賞している。

犬が感染する”ドッグ病”が街を席捲している20年後の日本の都市メガ崎市が舞台。そこで、描かれるのは、三つのストーリーだ。”ドッグ病”が人間にも感染するのを恐れ、ゴミ島にすべての犬を捨てることを決意する小林市長ほか、街の人々。犬を追放するのに反対し、”ドッグ病”の薬を開発しようとする渡辺教授ほか、犬愛護派のグループ。

その間、市長の養子少年アタリが、愛犬で警備犬のスポッツをゴミ島まで探しにいく。彼を助けるのは、犬たちのグループ。やっとのことでケージを抜け出し、少量の食べ物を巡ってサバイバルに明け暮れていた犬たちだ。甘やかされた金持ちのペット、セレブ犬、野良犬が、一つ一つ多数決を取って決断していくところが面白い。

浮世絵風のアニメーションで過去を描き。未来の日本といいつつ、世界観は昭和風の黒澤映画の時代で、それをを丹念に作り上げているミスマッチも楽しい。

ボイスキャストは、『ブレイキング・バッド』のブライアン・クラインストンが野良犬チーフ、リーダー気取りの犬、レックスにエドワード・ノートン、他にもビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドプラム、スカーレット・ヨハンソン、ティルダ・スィントン、リーヴ・シュレイバーなど、主役級のキャストをこれでもかという勢いで集めている。通訳にフランシス・マクドーマンド、女子留学生に、 『フランシス・ハ』でゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、『レディ・バード』の監督・脚本で今注目を一身に集めているグレタ・ガーウィグ。

豪華な外国人ボイスキャストに比べ、科学者助手を演じるオノ・ヨーコが主要な役を演じている以外は、日本勢は無名がほとんどだ。アタリ(ランキン・こうゆう)や小林市長(野山訓一)も一本調子の典型的な日本人イメージで、それがストーリーの弱みにもつながっている。三つのストーリーのうち、犬たちのアドベンチャーが、最高にワクワクさせてくれるのに比べ、その他のストーリーは描写と説明になってしまっているのが残念。それがストーリーが結びつく重要なシーンが唐突に感じられる理由にもなっている。ボイスキャストの技は、映画のパワーに直接つながっている。

ボイスキャスト以上に魅力的なのは、職人の寿司を作る長いシークエンスだ。ストーリーのキーポイントになっている上、特別仕立て。プロの技というのはこういうことだと、強く印象つけられた。

(オライカート昌子)

『犬ケ島』
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
オフィシャル・サイト
http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/