探偵はBARにいるの画像
(C)2011「探偵はBARにいる」製作委員会
強引に決めつければ、いままでの大泉洋の当たり役は、ウェンツ瑛士主演の実写映画『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男である。その一挙手一投足に惚れ惚れし、水木しげるの漫画を超えているとさえ思った。誰もが認める芸達者な俳優だが、何の努力もなしにねずみ男になれるわけがない。その芸は、想像以上のたゆまぬ努力に支えられていると確信した。

その彼が満を持して臨んだのが『探偵はBARにいる』(橋本一監督)。東直己原作「バーにかかってきた電話」の映画化で、大泉洋は札幌“ススキノ”の探偵に扮して、殴られ蹴られ、反撃し、雪の中に埋められ、ギャグもかましての大奮闘を見せる。大奮闘なのに肩の力が抜けている。ボケても転んでもオネエチャンといちゃついてもわざとらしくなく、観ていて非常に心地よい。

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(C)2011「探偵はBARにいる」製作委員会
正体不明の女からかかってきた電話で調査を開始した俺(大泉洋)は、ついついいらぬところまで首を突っ込んでしまい、生傷の絶えない日々。やがて浮かび上がるのは、あくどい組織の暗躍とその撲滅に立ち上がった名士(西田敏行)の不審な死。どうやら、名士の妻・沙織(小雪)がからんでいるようでもある。いくらひどい目に遭っても、お人好しで女好きの彼は再び三度、女の指令を受け、次なる痛手を引き受ける羽目になる…。最終的に、フランソワ・トリュフォー監督、ジャンヌ・モロー主演『黒衣の花嫁』を連想した。

腰が軽く前のめりな“俺”とは対照的な、のんびりやの運転手で相棒の高田に扮した松田龍平が絶妙なたたずまいを見せ、この映画にさらに心地よいリズムを加える。このコンビがオンボロ車を猫なで声であやしながらの出発シーンなど、何度見ても人間的で愛らしい。シリーズ化が決定したのも当然だろう。

なんといってもこの映画の最大の見どころは、大泉洋が、主人公を長年演じてきたように楽々とこなしていることにある。身体の凝りをほぐしてくれるような、こういう“エッジの効いていない”主人公の復権を心から歓迎したい。大泉洋こそは、日本映画に久々に現れた正統派ヒーローであると言い切ってしまおう。大泉洋の真の当たり役の誕生である。
                                 (内海陽子

探偵はBARにいる
オフィシャルサイト http://www.tantei-bar.com/