『半世界』映画レビュー

『半世界』は、普通の人々の日常の生活をほのぼのと描きつつ、見えない広大な世界を感じさせる奥行のある映画である。阪本順治監督は、前々作『団地』(2015)で、驚きのクライマックスを用意して煙に巻き、前作『エルネスト』(2017)で、キューバ革命の英雄エルネスト・チェ・ゲバラとともに戦った日系人、フレディ前村の姿を描いた。

『半世界』は、見ようによっては三部作の完結編とも言える。前二作の世界観を違った観点から描いているようでもある。それこそ、正三角形か、二等辺三角形のように。

三作品に共通しているのは、『団地』の主要人物に斎藤工、『エルネスト』にオダギリジョー、『半世界』に稲垣吾郎と、見栄えのいい俳優を積極的に起用しているところ。それも理由の一つかもしれないが、どんなに生活感ある世界を描こうと、よくできた数式のように洗練された世界がスクリーンから漂ってくる。

普通なら、山村の炭焼き親父にアイドルを起用しないだろう。稲垣吾郎は、ひとつひとつの所作が美しすぎる。かといって似合わないわけではない。ほんの少しの違和感は、ドラマが進むにつれ消え、ラストには調和した世界が浮かび上がる。

幼いころから仲良しだった高村、沖山、岩井の三人は、高校卒業後、沖山が自衛隊に入ったことで離ればなれになっていた。40歳を目前にしたある日、炭焼きの仕事をする高村は、久しぶりに沖山が故郷に帰ってきた姿を見て驚いた。再び三人組は友情を取り戻すことができるのだろうか。


大人になった三人はそれぞれ問題を抱えていた。炭焼きの仕事が先細りになり、いまや、親子三人の生活も苦しい高村は、反抗期を迎えた息子との絆を失いかけていることにも気づかない。だが、高校以降、違う厳しい環境にいた沖山が戻ってきたことで、高村の生活にも変化が見え始める。

映画は、三人の関係の今後や、親子三人の行方、炭焼き仕事の将来など、小粒だけれど深刻なドラマで引っ張るけれど、そこにあるのは巨大な「世界」だ。「世界」とは何なのか、それは会話にもあるので、表題の『半世界』を解くのは難しくない。

その「世界」についてある程度納得した後に、奥にもう一つの世界があることに気づかされる。見えないし、それがあることすら意識しないものだ。

それは、雨の中の傘を見下ろす視線の先にある。そこで宇宙的なほど広い世界に包まれている感覚すら呼び起こされた。映画が持つ底知れぬ表現力に驚かされる。

(オライカート昌子)

半世界
©2018「半世界」FILM PARTNERS
配給:キノフィルムズ
2019年2月全国ロードショー
監督:阪本順治
出演:稲垣吾郎 長谷川博己 池脇千鶴 渋川清彦 小野武彦 石橋蓮司