『ふしぎな岬の物語』映画レビュー

(C)2014「ふしぎな岬の物語」製作委員会
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今、ひとりで辛い思いを抱いている人が大勢います。「失敗してもいいのよ」「あきらめないで」と励まし、寄り添うことの大切さをこの映画に出演して、強く感じました。‘旅人たちのオアシス’のような作品として、皆様に受け入れていただけましたら、嬉しいです。—吉永小百合

映画ライターとなる以前、40代の2年間を千葉県の南房総白浜のリゾートホテルへ単身赴任していた私にして、こんなカフェが近場にあれば常連客だっただろうなぁとノスタルジックな気分に浸りながらの観賞となりました。

太陽と海に抱かれた千葉の南房総に有る「岬カフェ」の店主・柏木悦子(吉永小百合)。悦子をこの地へと導いたのは、今は亡き最愛の夫でした。スケッチ旅行で訪れたこの岬で、美しい虹と出会った夫は、虹の絵を悦子に残しました。

カフェの裏に「何でも屋」を営むトラブルメーカーの甥・浩司(阿部寛)が居ます。ネルドリップで丁寧にいれた心づくしのコーヒーに常連客は癒され、悦子もそのささやかな生活に満足しています。ある日は30年の常連客タニさん(笑福亭鶴瓶)の大阪転勤、またある日は漁を営む徳さん(笹野高史)の娘・みどり(竹内結子)が数年振りに帰郷……。
常連客の他にも、東京から虹を追いかけてカフェにやってきた父と娘。時には、深夜のカフェに現れた「ドロボーさん」には雀の涙ほどの売上金とコーヒー、トーストでもてなし、明け方までじっくりと語り合ったりと 人情の群像劇となっています。

このオールスターキャットで贈る深い味わいの本作の監督は『孤高のメス』『八日目の蝉』の成島出で、「あなたへ」などの原作で知られる、森沢明夫の小説「虹の岬の喫茶店」を人の絆・ぬくもりに特化した演出が素晴らしく、主演の吉永小百合にしか出来ない役を直球ど真ん中でチャーミングに描き出して、吉永小百合の代表作になったことは間違いないでしょう。

時代と共に映画がより過激により複雑により可笑しくよりワイセツに変革している中、オーソドックスに人々の絆を見事に表現。結果 第38回モントリオール世界映画祭でも多くの観客の涙を絞りとり、審査委員特別グランプリを受賞。
格差が生まれ、拝金主義がまかりとおって金融で一喜一憂する現代日本人の目をよそに、本来の「美しい国ニッポン」を描出。こういう映画を私も待っていました。是非、映画館でご覧ください (中野豊)

■2014年 日本映画/上映時間:117分/監督:成島出/題字・デザイン:和田誠/衣装デザイン:鳥居ユキ/出演:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史、小池栄子、春風亭昇太、井浦新、吉幾三、片岡亀蔵、中原丈雄、石橋蓮司、米倉斉加年 and 杉田二郎、堀内孝雄、ばんばひろふみ、高山厳、因幡晃 ほか

オフィシャルサイト:http://www.misaki-cafe.jp/index.html