『この世の果て数多の終焉』映画レビュー

映画を見るってどういうことなんだろうか?

この映画は、その疑問に対する一つの答えを与えてくれたような気がする。

『この世の果て数多の終焉』は、美しくて、残酷で、静かな映画だ。

第二次世界大戦末期のインドシナ(現在のベトナム、ラオス、カンボジア)戦争を宗主国のフランス人兵士(ロベール)の視点で描いている。

ロベールは駐屯地で起きた殺戮をただ一人生き延びた。兄夫婦を殺した虐殺の首謀者、ベトナム解放軍のウォー・ビン・イェンへの復讐心から、部隊に復帰。復讐心は、彼をインドシナの深部へと駆り立てていく。

主人公がとにかく美しい。フランスのトップ俳優、ギャスパー・ウリエル演じる、ロベールの立体的なフォルムに魅入られてしまう。

ヒロインのマイも、彼に見合うほどきれいでなくてはならない。アジア的美しさを持つ彼女は、すべすべとした肌が、平面的アジア的な姿を包む。

インドシナに定住する作家、サントンジュを演じるジェラール・ドパルビューは、圧倒的な存在感をもって、スクリーンに重さを加える。

立体、平面、重力。この三人が、しっかりとした輪郭を作り上げている。

映画自体、インドシナの重層的な自然、次々と訪れる死、その対比としての生という三角形が、静謐なボリュームと調和をもって描かれている。

人は自然の中で生きて、そして死ぬという事実。

それを、ギョーム・ニクルー監督は、独りよがりではなく、押しつけがましくなく、少し引いた、落ち着いた目線で提示してくれる。

残酷な描写があって、全員におすすめすることはできないけれど、この映画を見た後で、少し世界が深く、愛おしく、透明度を増すような気がした。

映画を見ることは、時空を旅をすること。記憶がよみがえらせること。愛おしさが増すこと。そんな風に感じさせてくれる。

(オライカート昌子)

この世の果て数多の終焉
(C)2017 Les films du Worso – Les Armateurs – Orange Studio – Scope Pictures – Rectangle Productions – Arena Films – Arches Films – Cinefeel 1 – Same Player – Pan Europeenne – Move Movie – Ce Qui Me Meut

2018年製作/103分/R18+/フランス
原題:Les confins du monde
監督:ギョーム・ニクルーラン=ケー・トラン
出演:ギャスパー・ウリエル、ジェラール・ドパルデュー、ギョーム・グイ、
配給:キノフィルムズ