どうやら私にとっての2012年は、家族や恋人とは一線を画す、オルタナティヴな関係性を模索した作品に心魅かれたようだ。

見ず知らずの他人に肉親の甘えは通用しない。ちょっとした気の緩みや、些細な行き違いが、それまで懸命に手繰り寄せた絆を一瞬にして断ち切る脆さを秘めている。訳知り顔の同情や憐みなど煩わしいだけだ。

そうして、時に大胆に時に慎重に、嘘偽りなく寄り添った心と心は、それぞれの未来を生きるかけがえのない指針となる。そんな稀有な関係性が胸にじわり沁み渡るとき、私もまた映画への信頼を深める至福で満たされた。

10.屋根裏部屋のマリアたち

未知の感情に目覚めるとき、退屈な日常が刺激に満ちた歓びへ変わる。屋根裏で美食に舌鼓を打ち、ワインに酔い、フラメンコに興じる。環境の違いを超えた“同志”の宴は、何にも代えがたい生きることの贅沢さだ。

9.オレンジと太陽

「あんたは最高のプレゼントだ」。自らの無知に打ちひしがれたマーガレットの孤独な闘いは、“児童移民”の心の虚ろを埋める。信頼は失われた絆を紡ぎ、“何も欠けていない”新しい家族の第一歩を踏み出させる。

8.幸せへのキセキ

父が母に捧げた“20秒の勇気”が、心を閉ざした息子の愛の扉を押し開く。車のバックミラーの映る亡き妻の面影。そこに宿した男の純情が、キャメロン・クロウの本領だ。

7.戦火の馬

アルバートの口笛に、いかなる窮地に陥ろうと応じるジョーイの健気さ。誇り高き不屈の魂で結ばれた無二の親友は、戦場の危険さえ乗り越え、互いの生命を手繰り寄せる。美しい馬は、瞬時にして人を魅了する。

6.最強のふたり

臆病を辛辣さに押し隠した富豪と、大胆さの裡に心優しさを秘めた移民青年との運命のタッグ。これぞ、“最強”のコンビだ。深夜のセーヌ川沿いのカーチェイスに、これほど心ときめくとは!

5.アルゴ

「俺を信頼してくれたら、ここから出してやる」。無謀に挑んだ米国人たちが間一髪で掴んだ自由を、遠い祖国で底支えするチェンバースとシーゲルの丁々発止。ハッタリと大風呂敷の映画人の心意気、ここにありだ。髭面にハリウッドスターのカリスマ性を押し隠したベン・アフレックは、まさに能ある鷹は爪を隠す。スリルとサスペンスの胸騒ぎを堪能した。

4.思秋期
完璧な人間など、いない。“ダメ人間”のジョセフが、“完璧”を投影したハンナは、彼よりいっそう深い心の闇に苛まれていた。その事実に怖気づいたジョセフは、しかしハンナが彼に見た「愛に満ちた」人生へ、たしかな歩を進める。完璧でないからこそ人間は愛おしい。強面の裡にガラス細工の繊細さを秘めたピーター・ミュランが、ひたすら素晴らしい。

3.桃さんのしあわせ
世の中には、年齢や性別、身分の差を超えて、“ウマが合う”友人が存在する。母に言われると反撥必至の物言いも、桃さんだからこそ醸し出されるエスプリに、思わずロジャーの頬も緩む。そんな気の置けないふたりの小気味良い“へらず口”の心地良さ。旧き善き香港人へ捧げるアン・ホイ監督の敬意あふれるオマージュに、私の胸も熱くなる。

2.キリマンジェロの雪

家族や仲間に恵まれた男の“正義”は、母に見棄てられ、幼い兄弟を背負い込んだ青年には“偽善”に映った。安っぽい理想を、たしかな現実として実践する“夫唱婦随”の衒いなさに、私の胸はときめく。「人を傷つけずに生きてきた」ことに満足するのではなく、非情な世の中にたおやかに棹を刺す。そう、今こそ「闘争こそがシック」な時代なのだ。

1.少年と自転車

「なぜ僕を預かるの?」「だって、あなたに頼まれたから」
シリルとサマンサの出逢いは、運命さながらだ。掴もうともがく程にシリルはサマンサの腕を力任せに擦り抜け、ふたりは取っ組みあう。それは彼らの人生の格闘でもあるのだ。ベッドの中で身を固くして縮こまるシリルのちっぽけさは少年のナイーヴな儚さそのものだ。そんなシリルの“生まれ変わり”を神話のような詩情で満たしたダルデンヌ兄弟、わずか90分の真骨頂。自転車は両輪あればこそ、風の中を疾走するのだ。(増田 統)

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