ザ・ギフトの画像
(C)2015 STX Productions, LLC and Blumhouse Productions, LLC. All Rights Reserved.
10月28日より公開の全米スマッシュヒットのサスペンスムービー、『ザ・ギフト』について、オライカート昌子、中野豊、内海陽子が鼎談を行いました。

ザ・ギフトとは
オーストラリア出身の人気俳優、ジョエル・エドガートンが初監督・オリジナル脚本・出演をつとめたサスペンス映画。米の批評サイトロッテン・トマトでも、IMDBでも高評価。主演にジェイソン・ベイトマン、妻役にレベッカ・ホール。

新天地に引っ越ししてきて、山の上の高級住宅に落ち着いた夫婦、サイモン(ジェイソン・ベイトマン)とロビン(レベッカ・ホール)が偶然に出会ったのは、サイモンの元同級生、ゴード(ジョエル・エドガートン)。ゴードは、再会を祝して、二人にプレゼントを贈るが、プレゼントは次から次へと届く。そのプレゼントにはある秘密が隠されていた。

惹きつけられるが、一種、”嫌な映画”でもある

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内海:昌子さんは以前から『ザ・ギフト』の監督・出演者であるジョエル・エドガートンの大ファンだったのですね。私もいろいろ見ていたのですが、目に留まっていなかった。

オライカート:『アニマル・キングダム』ではちょっとだけの出演でしたが目立っていました。『華麗なるギャツビー』、『ウォーリアー』、『ブラック・スキャンダル』、『エクソダス:神と王』などに出演しています。華やかでもあるけれど、地味系、実直系面もある俳優かもしれないですね。

中野:この役に合っていましたね。

内海:ゴード役を他の人に頼もうかと考えたけれど、やはり自分でやりたかったようですね。監督としても、話をちゃんと伝える力があります。

オライカート:ジェイソン・ベイトマンもすごく好きなんですけど、『ズートピア』ではアカギツネのニック・ワイルドを演じていました。

内海:『JUNO/ジュノ』で注目を浴びましたね。

オライカート:コメディアン的な役も多いです。『モンスター上司』とか。

中野:『JUNO/ジュノ』と『ドッジボール』ですね。この人も優秀ですね。人の心を動かす力がありますね。今回も最初は善人だと思ってみると、というわけです。脚本もですが、キャスティングもいいんだ。僕は少し気持ち悪かったですけどね。昔の記憶が甦って…。やだな、やだなと思って見ていました。

内海:嫌な映画だったんですか。どのへんがですか?

中野:中盤からですね。なんとなくどういう映画かわかってきちゃったんです。

内海:ゴードの振る舞いがですか? あなたの過去の出来事が影響しているんですか? まるで自分がそういうことをやっているみたいな?

中野:そうそう。

内海:そこまで惹きつけるというのは、それも素敵ね。俺なら、ああいう風にはならないぞとは思わなかったんですか?

中野:自分だったらやっちゃうね。目には目にで。鯉を殺しちゃうぞってぐらい。この映画はほんとうに見ないようにしていた感じ。

オライカート:忘れたい映画?

中野:そう。忘れたいほうのベストワン。

やっているのか、いないのか

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内海:この映画全体で思ったのは、肝心なところで悪さをしていないということがありますね。一番大事なのは、愛犬ね。単にちょっと隠しただけなのかもしれない、はっきり描写されていないですね。ラストの問題にしても、わたし、彼は“やっていない”と思うの。

中野:そうですか。そういう風にも見れるんですか?

オライカート:“やっていない”可能性のほうが大きいと思いますね。

内海:ラストのところもそうですが、わたしはゴードの立場になって見ていました。「目を見ろ」というせりふがあります。病院で部屋の窓越しに”その目”を見ながら、ゴードはかすかに笑うのですが、そこはしてやったりというよりは、何か安心したように見えるんです。自分の仕掛けがうまくいったと。

ゴードはサイモンをもてあそびたいだけだから。それが成功した。私は完全にゴードの側に立って、岡目八目的にすごく楽しんで見ました。復讐の教科書のようでカッコいい映画だなと思って。レベルが高いですよね。

オライカート:そうさせないための、復讐させないための伏線も張っていると思うんですよね。実はやりたくないから、相手にもチャンスを与えている。だけど、相手側はそれに乗らないので、結果としてこうなってしまう。

内海:チャンスを与えているように見えて、こいつは絶対チャンスに乗らないだろうな、というところまでわかってやっていると思いますね。彼は25年間苦しんで、ありとあらゆることを考え尽くして、相手のことはすべて理解していると思う。再び会ったのが千載一遇のチャンスで、全部仕組んだんだと思う。相手は全部にはまった。

ただ、救いは、彼がサイモンの奥さんに対して好意を持ったことだと思う。奥さんとのささやかな友情が救いになっている。彼は出産直後の病室に花束を持ってきて、「いい人にはいい事が起こる」と言うでしょ、あれは真意だと思う。無差別に人を陥れるわけではないのです。

中野:だから物理的なものではなくて、心をワーッと揺さぶるようなものなんですね。奥さんに対しても。

内海:奥さんは気の毒だったんですけどね。でもゴードは気絶している人に何かをするとか、そういうたちではないですね。彼のキャラクターからしてね、むごいことはしない。ですが、あそこで観客をひっかける。

中野:たしかにそうですね。

内海:そこがおもしろいよね。サスペンスもので、ときどき宣伝部から結末を明かさないでください、伏せてくださいとか言われますが、そういう厚かましいお願いがないのがいいですね。そもそも見た人が考えざるを得ないエンディングだし。とても知的で、しかしわかりにくいわけではない。

中野:こんなに褒め過ぎでいいのか。

内海:いいでしょ。

映画ってこういうことのためにある

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中野:プレスシートにヒッチコックと並ぶ、というコメントがありますけど…。

内海:違うと思う。ヒッチコックはもっと変態ですよね。

中野:そうですね。この映画はまともですよね。

内海:そうですよ。あなたがまともなように。ただ、傷ついた心の持ち主だというだけであって。現実では起こりえない、千載一遇のチャンスがめぐってきたという。映画ってこういうことのためにあるんだっていうことですね。中野さんも楽しんでみればよかったのに。

中野:もったいなかったですね。

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内海:この男はいい男ですよ。わたしもジョエル・エドガートンのファンになりました。

オライカート:なぜか存在が上品なんですよ。

内海:下品なように演じることもできるのよね。

オライカート:そうそう。

内海:俺は悪さをしないよ、なんて顔はしないでね。

中野:このギフトっていう題名も、最終的に考えれば、この悪いやつも含めて、人生への最後の贈り物だと思う。あんたはどうだったのよ、どういう生き方をしていたんだよ、っていうことを、ちゃんと思い出させる。

オライカート:観客全員に対してですね。

中野:そう。

内海:素敵な感想ね。

オライカート:それこそ『ジェーン』と違って、昔の回想シーンが全くない。ずっと現在形でまっすぐ進んでいくのがわかりやすいですね。

内海:『ジェーン』というのは、ナタリー・ポートマン主演映画で、これも『ザ・ギフト』と同じようにジョエル・エドガートンが脚本を担当し、出演もしているのですが、三年前や、七年前という字幕が出たり、回想シーンがあちこちに入ったり、観客を疲れさせるのです。この方が脚本を書いているとは到底思えない。たぶん、協力をしているのではないか、部分的にお手伝いをしているんではないかと思います。

中野:僕は見ていないのですが、『ジェーン』は公開できるかどうか危ぶまれていたんではないですかね。

内海:監督に問題があるのよ。観客を疲れさせる作りなの。無駄にわかりにくい。起こったことを順番に描けばいいのに、かっこつけている。で、後半30分は普通にクライマックスなんです。このクライマックスだったら、普通に描けばいいのにと思いました。やっぱり監督に変な思い入れがあって、いじくりまわしちゃったのね。

中野:やっぱり演出は大事なんですね。脚本をうまく料理するのは演出ですからね。

内海:同じ脚本家の『ザ・ギフト』と比べるとぜんぜん違うわね。

監督のレベッカ・ホールへの愛

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オライカート:ジョエル・エドガートンのお兄さんも、映画の製作に携わっています。ユアン・マクレガー主演の『ガンズ&ゴールド』に出演もしていました。ところで、『ザ・ギフト』には、映画のオマージュも多いですね。『地獄の黙示録』はそのままでてきますし、レベッカ・ホールは、『シャイニング』のシェリー・デュヴァルを彷彿とさせます。

中野:ポパイのオリーブ役で出ていた人ですね。

オライカート:スレンダーで首が長くて。

中野:ルックス的なものですか?僕は『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイも思い出しました。

内海:わたしはレベッカ・ホールには強靭なものを感じていました。今回は少し神経症的な役ですが、彼女の持っているものはとても強いものだと思います。

オライカート:そうでしょうね。

内海;ベン・アフレック監督の『ザ・タウン』でも、戦える女の役でしたね。実は。

オライカート:夫婦の関係で言うと、今までうまくやってきたけど、この出来事でヒビが入る。今まではよかったけれど、子供もいないからいつも夫婦ふたりきりなわけです。うまくいく夫婦には努力が必要なわけです。

中野:この男は、うそをついていても、人格者に見える。まわりもそれを信じてしまう。人格者に見える人って、いったいどういう人なんでしょうか。

オライカート:うそつきだからでは? 人格者に見せるように嘘をつくから。

中野:政治家ですね。

内海:彼女はかつて睡眠薬中毒だったらしいという描写がありますが、悩んでいたんだと思います、夫はどこか違うんではないかと。わたしたちにはあかされてはいませんが。実は引越しの理由は睡眠薬中毒だったのかもしれない。彼女は会社を経営していたようですが、やめざるを得なくなり、彼の言うままに引越しした。彼女は抵抗できなかった。夫はもともと横暴な男なのよ。ゴードに会って、いろいろ振り回されたけど、彼女は欲しかったものを手にして、夫から自立することができた。それもギフトよね。

中野:深いなあ。

内海:それに彼女は、すごくきれいに撮られていて、上品な黒いドレスを二種類まとう。体の線がとても美しかった。妊娠中にまとうミッドナイトブルーのドレスも素敵ね。監督のジョエル・エドガートンのヒロインへの愛を感じました。そしてそれはゴードに託されていると思うんですよ。

中野:なるほどね。

映画にホスピタリティはあるか

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オライカート:レベッカ・ホールは今まで強さを感じさせる役を多く演じていましたが、これほど美しさを感じさせる役は初めてだったのではないかと思います。スレンダーで。『シャイニング』を思わせるところもあるので、スタンリー・キューブリックの影響もあるのではないかと思いました。

内海:映画好きの人だからいろいろな人の影響を受けているとは思いますが、キューブリックではないと思います。

中野:映画をいっぱい見ている人は、知らず知らずにいろいろな映画の影響を受けていることも多いですからね。

内海:この映画は、ヒッチコック風といわれるのが普通だと思いますが、ヒッチコックほど変態ではないから、これからいろいろな映画を作れる人だと思います。

中野:そうだと思います。

内海:話は変わりますが、わたしは映画の中でむやみに大きな音で驚かされるのが嫌いなのですよ。

中野:僕はホラー映画は大好きですよ。

内海:ホラー映画がだめなわけではなく、どこでおどかすとか、どこでおどかされるとかというときに、単に音だけでギクッとさせられるのが嫌いなんですよ。この映画では○○が帰って来たときの音だったのですが、飛び上がってしまったんですよ。許しますけれど。あそこで死骸などがあったら、この映画、絶対支持しないと思いました。

オライカート:あそこだけ音で脅かしますからね。

内海:あそこだけ。チャーミングだと思いますよ。すっかりハマってしまいました。

中野:僕はベストテンには入れられないな。もう見たくないから。

内海:わたしはベストテンの上位ですね。この監督に対する信頼度が固まった感じです。

中野:素晴らしいですね。

内海:裏切られない感じ。いたずらに揺さぶられたくないっていうのがある。この監督の持っているものは、観客の善意をいたずらに揺さぶらない。そういうルールがきちんとある。ダメな映画っていうのは、そういうのがグチャグチャになっている。自分の主張をいたずらに観客に押し付ける。それはだめですよ。おもてなしの心があるかないかですよね。

中野:おもてなし。映画のホスピタリティ。

内海:優れた映画はみんなそうですよね。

中野:僕はけっこう弄ばれちゃう映画も好きですよ。

内海:それだっていい。最初から「悪意がありますよ」って出してくれればいいわけ。あなたがお気に召した映画は、ルールがきちんとしてるはず。スタンスがわからないまま揺さぶられる映画もありますから。悪魔の映画なら、これは悪魔の映画ですって、どこかにほのめかしてあればいい。それに気持ちよく乗れればいい。設計図の問題です。

中野:内海さんの話を聞いていると説得力ありすぎで好きになっちゃいますよ。

オライカート:そうなんですよね。

内海陽子中野豊オライカート昌子

ザ・ギフト
10月28日(金)、TOHOシネマズ 新宿 ほか全国公開
配給:ロングライド、バップ
製作:ジェイソン・ブラム  
製作・監督・脚本・出演:ジョエル・エドガートン 
出演:ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール
2015年/アメリカ/英語/108分/
公式サイト http://movie-thegift.com/