ファミリツリーポスター画像
(c)2011 Twentieth Century Fox
「スーパー・チューズデー ~正義を売った日~」では、清廉潔白と見せかけてじつは色男の大統領候補を演じて期待を裏切らなかったジョージ・クルーニー。その彼が、本作では仕事一途で妻の裏切りにも気づかないまぬけな弁護士マットを見事に演じるのだから話題になるのは当然。アカデミー賞主演男優賞を獲得できなかったのも役柄にふさわしいというべきだろう。

ハワイのカメハメハ大王の末裔に当たるという設定が、彼の濃い端正な顔に陰影を与え、先祖の威光や莫大な財産に振り回されずに生きると決めた頑なさに説得力をもたらす。日本でなら、働くおとうさんとして褒められこそすれ、非難されるはずはないが、なんといってもこの地はハワイである。金のある者は人生を謳歌すべしといわんばかりの世界で、仕事一途の家長に家族が不満をつのらすのはしかたのないことらしい。彼の妻は趣味に没頭して事故に遭ったのだから自業自得なのに、周囲は彼を責める。なんだか変ではないか。

 と思ったかどうかはわからないが、可愛げのない反抗期の長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)が次第に父に心を開き、母の浮気相手捜索に協力するあたりからおもしろくなる。彼女が連れてきたボーイフレンド(ニック・クラウス)の第一印象は最悪だが、次第にマットの心痛を理解し、その奮闘を応援するようになると、さえない風貌なりになかなか情感豊かな男に見えてくる。長女がこの青年を選んだことは悪くないかもしれないと思い始めると、彼女もきれいに見えてくるから不思議だ。

 後半のハイライトのひとつは、妻の浮気相手の奥がた(ジュリー・スピアー)が花束を抱えて病室に現れるところだろう。自分の夫の情事を見抜き、代わりに見舞いに来た賢妻かと思いきや、昏睡状態の妻に対して「許すわ」と述べたあとから恨みごとを言いたてる。あわてて押しとどめるマットの振る舞いに彼の人間味がにじんで、この場面を救いのあるユーモラスなものにしている。

 苦難を体験するのは悪いことだらけではない。家族の結束を強め、緊張感を生む。緊張感とは互いへのさりげない配慮である。マットと娘二人の居間でのTV鑑賞が、心の通い合った家族の心底からくつろいだ姿に見えてくる。天国の妻は安心しているだろうか、それとも羨んでいるだろうか。
                            
(内海陽子)

ファミリー・ツリー
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