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 市原悦子主演のテレビドラマ『家政婦は見た!』が人気を博したのは、庶民の覗き趣味にぴったり合ったからだ。映画好きもまた覗き趣味の持ち主であることに間違いはなく、この『ハウスメイド』も、そういう好き者に向けて丹念に作られた映画である。冒頭、ビルの屋上から飛び降り自殺をした若い女を、ビルの窓越しに見下ろす女たちは、映画観客のことかもしれない。

 死体が片づけられた地面を確認したウニ(チョン・ドヨン)は、その後、豪邸のメイドになった。メイドの衣裳は、すらりとしたウニによく似合い、妊娠中の女主人(ソウ)の高慢な態度も気にならない。なにより、一家の長女ナミが自分になついてくれたことがうれしい。そんな彼女に、先輩メイドのビョンシク(ユン・ヨジョン)は、これは「汚くて恥ずかしい仕事」だと言う。

 妊娠中の妻とのセックスに飽き足りない主人(イ・ジョンジェ)は、ウニの魅力に気づいて誘う。ウニは誘いに応じ、ビョンシクは彼らの行為を知り、女主人の母親に報告する。こういうところが「汚くて恥ずかしい仕事」である所以なのだろう。やがてビョンシクはウニに同情して味方になるが、時すでに遅く、ウニの身に危険が迫る。

次第にビョンシクが探偵に見えてくるのが興味深く、この映画は彼女が影の主役だと思えてくる。入院中のウニに主人から言いつけられて大きな花束を届けるときの複雑な仏頂面がいい。これも彼女にとっては「汚くて恥ずかしい仕事」なのだろう。劇中、頭が弱いと表現されるウニだが、ビョンシクを包み込む慈母のような表情を見せ、われわれ観客をも惑乱させる。そして覗き趣味を満足させる最大の見せ場の後、長く心に残ることになる不思議なラストシーンが待ち受ける。

相変わらず傲岸不遜な主人一家の誕生パーティーで、なぜか長女ナミの目線は左上を追っている。そこに何があるのか、いくら覗きこんでも我々観客には見えない。最後の最後に、観客の覗き趣味はしたたかなしっぺ返しを食らう。その余韻を楽しめてこそ、本物の映画好きなのである。
(内海陽子

ハウスメイド
TOHOシネマズ シャンテ、他にて上映中。
『ハウスメイド』公式サイト http://housemaid.gaga.ne.jp/