スマグラー お前の未来を選べ 画像
(C)真鍋昌平・講談社/2011「スマグラー おまえの未来を運べ」製作委員会
華麗に、残酷に奏でられる完成された小宇宙

どんな荷物でも運んでしまう運送屋の映画といえば、ジェイソン・ステイサム主演の『トランスポーター』シリーズが有名。だが、映画『スマグラー おまえの未来を運べ』では、もっとヤバい荷物が運ばれる。アクションの魅せ方や残酷描写の凄まじさも、『トランスポーター』をはるかにしのぐ。

最近流行の万人向けで口当たりのいい邦画らしさはどこにもないし、昔の日本映画が持っていた泥臭さもかなり控えめだ。幾分スタイリッシュな知的さと、微妙な泥臭さのバランスがいい。石井克人監督がファンという、タランティーノ風味の邦画というべきか。

登場してくるのは、一筋縄ではいかないたががはずれた人物ばかり。タバコの煙を異常に嫌うやくざの親分(島田洋七が演じている)、息を吐くように拷問を楽しんでしまうその子分(高嶋政宏が怪演を見せる)、ゴロスリ姿で金を数える金貸し、人は死んだ後どうなるのだろうかと悩む殺し屋など。妻夫木聡演じる主人公は、どうしようもなさとやるせなさで生産的な活動が一切できない元劇団員のフリーター。

タランティーノが、好んで饒舌だったり大きな世界観を振りかざしたりするのと比べると、一癖もふた癖もありそうな人々が繰り広げるのは、決して大きな世界/ストーリーではない。テーマ的に見ても実に小さい世界だ。でもその小ささが心の琴線に触れる。手を抜かずに場面を丹念に積み重ねることによって、小宇宙の完成度はかなり高くなっている。

手を抜かない姿勢は、キャスティングにも見受けられる。中国マフィアがでてくる場面では、これは香港映画?と一瞬錯覚しそうになるが、同じ面々が普通に日本語もしゃべる。つまり、二ヶ国語をしゃべるキャストをそろえているわけだ。しかもそれが大きな収穫となった。

スマグラー 画像
(C)真鍋昌平・講談社/2011「スマグラー おまえの未来を運べ」製作委員会
中国映画に出演し、中国語も堪能な安藤政信の4年ぶりの邦画復帰だ。映画で最も印象的な存在、殺し屋の”背骨”を演じている。彼が登場するだけで、シーンは華やかになる。演技力、存在感もさすがだ。永瀬正敏(運び屋ジョー)をはじめとするその他のキャストの素晴らしさも言うまでもない。

ただ、主演の妻夫木聡とちはるを演じる満島ひかりが二人並んでいる場面で、あれ? と違う映画が脳裏に浮かんでしまったのは、ココだけの話。邦画って層が厚いんだか、薄いんだか。(注・違う映画とはタイトルに”悪”がつくあの映画のことです)
(オライカート昌子)

スマグラー おまえの未来を運べ
オフィシャルサイト http://wwws.warnerbros.co.jp/smuggler/index.html