(C)2013CTMG
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見ていて楽しいだけでなく、一つ一つのシーンをいつまでも見ていたいと思わせてくれる。極上感あふれた、チャーミングな映画が、『アメリカン・ハッスル』だ。

『ザ・ファイター』でオスカー監督賞、『世界にひとつのプレイブック』で作品賞にノミネートされたデヴィッド・O・ラッセル監督が、70年代に実際に起きたアブスキャム事件を題材にとり、際立った手腕できめの細かい人間模様を描き出している。

メインを張るのはFBIに協力することになった詐欺師のアーヴィン(クリスチャン・ベイル)だ。オープニングシーンでは延々と彼がカツラをつけ、頭を整えるシーンが展開する。ジェニファー・ローレンス演じるロザリンが「死ぬのは奴らだ」を歌うシーンもそうだが、どことなくほのぼのとしたユーモアが作品を覆っているところも心憎い。

登場人物の描き方には厚みがあり、監督のまなざしの温かさが圧倒的。それぞれ弱点もあり、置かれた状況もやるせなさに満ちているけれど、それもまとめて人間だ、という押しつけがましさのないストイックなメッセージが伝わってくる。それぞれの人物に深く肩入れされてしまうし、愛おしさで胸がいっぱいになる。

主人公のアーヴィンは静かで軽快な存在感が心地よく、その他の登場人物もくっきりとした現実感で忘れられない演技を見せてくれる。

アーヴィンと理想的な恋愛関係を持ちながら、愛人で仕事の同僚に過ぎない立場に甘んじるシドニー(エイミー・アダムス)。専業主婦の閉塞感に苛まれながら、その状況から抜け出す手立てがない妻ロザリン。

アーヴィンを間に挟んだ、にらみあう女同士の距離感やバランスのリアル感が秀逸だ。長く専業主婦だった私には、突然歌を歌い出すロザリンの心理が人ごとには思えなかった。

アブスキャム事件の描き方や、だましあいは、監督の職人芸を見せてもらったように楽しい。コクのある贅沢な時間を思い出すと、いつの間にか笑みがこぼれてしまう。『アメリカン・ハッスル』を見逃すのは、もったいなさ過ぎる。

(オライカート昌子)

・アメリカン・ハッスル 映画レビュー 評論 批評(内海陽子)

アメリカン・ハッスル
2013年 アメリカ映画/サスペンス・犯罪・コメディ/138分/原題:AMERICAN HUSTLE/監督:デヴィッド・O・ラッセル/出演・キャスト:クリスチャン・ベイル(アーヴィン)、ブラッドリー・クーパー(リッチー)、ジェレミー・レナー(カーマイン)、エイミー・アダムス(シドニー)、ジェニファー・ローレンス(ロザリン)、ルイス・C・K (ストッダード)、マイケル・ペーニャ(パコ)ほか/配給:ファントム・フィルム
2014/1/31(金)よりTOHOシネマズみゆき座他ロードショー
『アメリカン・ハッスル』公式サイト http://american-hustle.jp/