『追憶』映画レビュー

 


C)2017映画「追憶」製作委員会
昨年末、まるで生き急ぐように「世界最速2016年公開日本映画のベスト10です。見ましょうよ(笑)」と【トップムービー】で発信した中野豊さんが、4月に亡くなられた。さまざまな外国映画は無論のこと、日本映画にも深くコンタクトする彼を同志と思っていたので、ひどく気落ちしている。

 この『追憶』は、丁寧なこしらえのオーソドックスな日本映画だが、中野豊さんならどう評しただろう。いつものように穏やかに微笑んで「愛の映画、人間愛の映画です」ときっぱりおっしゃったような気がする。

 本作は、もう会わないときめた三人の少年が長じて邂逅し、過去を引き寄せる物語だ。富山県警の刑事になった篤(岡田准一)、ガラス店の婿養子になった悟(柄本佑)、土建業者になった啓太(小栗旬)。資金繰りのため、啓太に借金を頼みに来た悟が殺された。その前日、偶然悟に再会して酒を飲んだことを篤は仲間の刑事に隠す。犯人が啓太ではないかと心配したからだ。かつて不遇な身の上だった三人は、世話をしてくれた恩人の涼子(安藤サクラ)を苦しめる男の殺害をくわだて、涼子がその罪をかぶった。篤はそれが心のしこりになっている。

 誰も過去からは逃げられないが、過去をどう受け止めるかは人それぞれだ。結論から言えば、過去から最も遠ざかっていたのは篤だった。悟は妻(西田尚美)と娘、従業員のためにガラス店維持に必死だった。妻(木村文乃)が妊娠中の啓太は、涼子が営んでいた喫茶店の跡地を買い取り、新生活を始める決意をしていた。殺人事件は意外な犯人像が明らかになるが、そのあっけない展開によって、この映画が犯人捜しのミステリーやサスペンスではないことがよくわかる。

 そして涼子の現状と、彼女の世話をし続ける山形(吉岡秀隆)の姿が描かれ、篤と啓太の和解(相互の理解)が描かれ、啓太の妻・真理の出自が語られる。単なる因縁話というふうにまとめられたくないという崇高な思いがにじむ。

 いまさらながらに思うのだが、そもそも映画というのは、愛を描き、死を描き、青春を描くものである。粒だった若手・中堅俳優陣が誠意を込めて演じる役柄のひとり、ひとりに愛と死と青春がある。愛はたとえ困難に直面しても消え去るものではなく、死は命の終わりだけを示すものではなく、青春は年齢を越えて輝き続けるもののはずだ。この映画は、そのことを、俳優の肉体に託して強く深く語りかけてくる。そして、俳優自身の未来をも同時に指し示すのである。

 わたしたちは、映画を観るとき、暗闇にいる。映画は光が発せられて始まり、光が消えて終わる。映画を観終えたときは、どこかで死を味わうことになる。しかし死は新しい生への渇望ともいえるのではないだろうか。だからこそわたしはまた暗闇に潜る。中野豊さんを忘れないために映画を観続けるのだ。
                             (内海陽子)  

追憶  
2017年5月6日 全国東宝系にてロードショー
2017年 日本映画/サスペンス・ミステリー/99分/監督: 降旗康男/出演・キャス:岡田准一、
小栗旬     
柄本佑     
長澤まさみ  
木村文乃
矢島健一
北見敏之
安田顕
三浦貴大
高橋努
渋川清彦
りりィ
西田尚美
安藤サクラ
吉岡秀隆ほか
/配給:東宝
『追憶』公式サイト 

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