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映画 ザ・コンサルタント 映画レビュー(内海陽子)

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不謹慎を承知で言うが、わたしは数学や数字を扱う作業が苦手なので、優れた頭脳を持つ自閉症の人にひそかに羨望を覚えている。その高機能をフルに発揮する職業があってもいいのではないかと思っていたら、この映画がそれを夢のように叶えてくれた。いじめられっ子だった自閉症児が、頭脳と身体を鍛え上げ、会計コンサルタントとして裏社会で暗躍する物語。アンチヒーローというより、ずばりダーティヒーローものである。

 人づきあいが不得手でおどおどした表情の会計コンサルタント、ウルフ(ベン・アフレック)は、とある企業の財務調査を引き受け、一日で不正の源を見抜く。初めに経理に不審を抱いた社員のデイナ(アナ・ケンドリック)が彼に興味を持ち、彼も彼女に少し心を開く。だが翌日、財務調査は中止になり、ウルフとデイナは命を狙われる。その時点で犯人の目星はつくが、それはこの手のサスペンスの常道というもので、犯人を察したうえで楽しむのが大人の作法である。

 ウルフの正体を探る財務省の捜査官(J・K・シモンズ)たちは、彼が裏社会のマネーロンダリング術に長け、殺し屋としても一級の腕の持ち主であることを突き止める。彼の父親は軍人で、幼い息子二人に武術を身につけさせ、さまざまな障害に立ち向かう方法を叩きこんだこともわかってくる。

 このところの出演作では大味な印象が否めなかったベン・アフレックが、目の覚めるような見事なアクションを見せる。アクションがしつこくて退屈する映画も多いが、この映画のアクションは切れ味鋭く、くどくない。単調な日常の描写ですら、ぴんと張り詰めた空気が持続する。つまりセンスがいいのだ。

 ウルフの人生に巻き込まれる娘役のアナ・ケンドリックは登場した瞬間から明るい安定感を見せる。彼の財産一式と銃器がつまったキャンピングカーを「君のために捨てる」に値する女だということが、観客にも即座に伝わる。アナ・ケンドリックは『エンド・オブ・ウォッチ』(13)で主人公の恋人を演じたときから好感度の高い女優だが、それが裏切られないのもうれしい。

 すさまじい殺し屋集団のリーダーとウルフとの対決がエンディングに待っているが、この顛末にはいささか肩透かしを食らう。どう対処していいのか苦慮する風情の社長(ジョン・リスゴー)が気の毒で、これはちょっと笑うところだろうかと思う。もっともJ・K・シモンズによって父と子の絆が強調されており、父が主導する家族を描くというアメリカ映画の源流をも感じさせる。となると正統派西部劇の流れをくむ映画と見るべきかもしれない。

  西部のガンマンのように去って行く主人公。“最強の相棒”に支えられたダーティヒーローのシリーズが誕生した。希望をこめてそう断言する。
                             (内海陽子)

映画 ザ・コンサルタント あらすじ

田舎町のしがない会計士、クリスチャン・ウルフには、別の顔があった。影の大物の会計士をつとめ、裏帳簿の管理をしていた。殺しの腕前も超一流。所有するトレーラーには美術の逸品やコレクショングッズを所有していた。対人関係だけでなく、様々な問題を抱えていたが、ストイックに日々を送っていた。

そんなある日、大企業リビング・ロボ社から、財務調査の仕事が舞い込む。膨大な記録をあっという間に解読していくウルフ。ところが、調査は急に中止されしまう。何事も最後までやり抜かないと気がすまないウルフには、は気が進まないことだった。さらに何者かにいのちを狙われることに、ウルフは真相の究明と反撃を開始する。

映画 ザ・コンサルタント
2017年1月21日(金)より丸の内ピカデリー・新宿ピカデリーほか全国公開
監督:ギャヴィン・オコナー 
出演:ベン・アフレック(クリスチャン・ウルフ)、アナ・ケンドリック(デイナ・カミングス)、J・K・シモンズ(レイモンド・キング)、ジョン・バーンサル(ブラクストン)、ジェフリー・タンバー(フランシス)、シンシア・アダイ=ロビンソン(メリーベス・メディナ)
2016年/アメリカ/128分/カラー
配給:ワーナー・ブラザース