話題作『おとなの事情』の監督にインタビューしてわかったこと

©Medusa Film 2015
本国イタリアのアカデミー賞と言われる「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」で作品賞と脚本賞のダブル受賞に輝き、28週間のロングラン上映を記録した、映画『おとなの事情』がマスコミで話題を呼んでいる。

 宣伝文句には、「隠し事が満載のスマートフォン、愛する人に見せられますか?」とある。愛が試される96分の密室ドラマ、なのであーる。
 
 とっさに、ワタシには無理だと思った。いくらガラケーのワタシでもケータイの情報を見せるのはハズカシイ。見せろと迫る輩も大キライだ。(笑)

 さてさて、映画のストーリーはこんな具合だ。

©Medusa Film 2015
 夕食会に集まった20年来の友人男女たち。夫婦はいるし、結婚間近のカップルもいる。やがて、ご馳走を頬張りながらひとりの女が提案する。

「お互い信頼している証拠にケータイを見せ合わない?」

 こうして、食事中に掛かってきた電話や着信メールをオープンにするという危険なゲームが始まった。。。

 ゲーム開始10分、妻帯者のケータイにメールが届いた。
「今すぐ会いたい」。。。

 これを機に個々のケータイには訳ありメールがポツリポツリと着信していく。
 折しもその夜は月食で、街は暗闇に包まれようとしていた。。。あ〜、コワイ。

 はたしてこの映画はサスペンスなのか、コメディーなのか。
 日本公開を前に初来日したパオロ・ジェノベーゼ監督にお話をうかがった。

©Medusa Film 2015
見事なサスペンス映画でしたね。
「サスペンス映画だって? これはコメディーだよ。『コメディー』というジャンルにはロマンチックなものもあれば、ホラーもあるし、サスペンスもある。どう感じるかは見る人によって異なるけどね」

 ワタシがサスペンスと思えたのはケータイにやましい情報が入っているからなのか、などと自問しながら次なる質問へ。

 乱暴な表現ですが、ケータイ電話の発達で映画がつまらなくなったと思います。いつどこにいても誰かと繋がっているわけですから緊迫感がない。特にヒッチコックのようなサスペンス・スリラーは成り立ちにくいと思うのですが。

 「この『おとなの事情』は、人間関係を描いている映画だけど、ケータイ電話というオブジェを使って、人間の関係が変わってきているんだということを描きたかったんだよ。事実、イタリアの文化はケータイ電話の登場で人間関係が変貌してきている。私たち(50歳前後)の前の世代は、結婚したら末長く夫婦関係を維持していこうというのが当たり前だった。そうした明快だった人間の関係を伝えたかったんだ」

 月食の、ある種不気味なシーンに一瞬、幸せそうな老夫婦が浮かび上がるのはそうした監督の思いがあるからだろう。
 ズバリ、監督の両親をイメージしたのかもしれない。

©Medusa Film 2015
この数分にわたる月食のシーンは映画のハイライトとして強い印象を残す。
今までかすかに聞こえていた日常音がすべて消え、当然のごとく物陰もすべて消えて、世界の終わりを彷彿させる。
 でもなぜか、心地の良い空気感を漂わせる名場面。
 だが、この心地良い場面を壊すのもケータイ電話の電子音なのだ。

 最後に、私がこの『おとなの事情』を観て思い出した2本の映画について監督にお話しした。
 
 一本は、オフ・ブロードウェイの戯曲をあのウィリアム・フリードキンが映画化した『真夜中のパーティー』(1970年)。
 ニューヨークのあるアパートの一室で始まったゲイたちの誕生日パーティーに予期せぬ客が訪ねて来たことによる一大事。客にゲイであることを隠そうとする前半のコメディーから一変、後半は電話を使った愛の告白ゲームでサスペンスフルな展開が繰り広げられる傑作である。
 
 もう一本は、ベルナルド・ベルトルッチの『ルナ』(1979年)。
 ルナとは月。月を母親と見立てて、月明かりの下、恋に一歩踏み出せない少年の淡い物語。
 劇中、月食を思わせる印象的なカットがあったのでうかがってみた。

 監督曰く、『真夜中のパーティー』は未見です。『ルナ』は私の長年の友人ベルトルッチの作品なので知っていますが何ら共通性はありませんよ。

 そーか、残念。でも、まぁいいや。
 気になるのはこの『おとなの事情』というイタリア映画をコメディーとして楽しめるか、サスペンスとして手に汗握って胃を痛めるか、あなたはどっちだろうってこと、だよなぁ。 

(文/取材 武茂孝志

『おとなの事情』

2017年3月18日 新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

2016年/イタリア/96分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題: Perfetti Sconosciuti ©Medusa Film 2015

監督・脚本:パオロ・ジェノヴェーゼ

脚本:フィリッポ・ボローニャ

パオロ・コステラ

パオロ・ジェノヴェーゼ

パオラ・マミーニ

ロランド・ラヴェッロ

撮影:ファブリツィオ・ルッチ

編集:コンスェロ・カトゥッチ

出演:ジュゼッペ・バッティストン、アルバ・ロルヴァケル、ヴァレリオ・マスタンドレア、アンナ・フォッリエッタ、マルコ・ジャリー二、エドアルド・レオ、カシア・スムトゥニアク

配給:アンプラグド

公式HP: otonano-jijyou.com