2016年の日本映画界は、ホラー、スリラー、犯罪映画の秀作がしのぎを削りそうだ。悲惨な少女誘拐殺人事件とともに、県警内部の人間模様をじっくり描く『64-ロクヨン-』は、その豪華キャストが目を引く一番の話題作。しかもよく見れば豪華キャストというより、現代日本の男優陣の実力派、中堅、若手の演技が見事な調和をなしているという点で突出している。ひとりひとりの顔や立ち居振る舞いを観ることそのものがすばらしく楽しい。

 数日で終わった昭和64年に起きた誘拐殺人事件は、未解決のまま14年が過ぎ、時効まであと1年となった。刑事から警務部広報官に異動となった三上(佐藤浩市)は、心が通わなくなって家出した娘を心配している。ある日、交通事故を起こした妊婦の匿名報道を記者クラブに要請したことで、彼らともめる。さらに警察庁長官が誘拐殺人事件の被害者の父、雨宮(永瀬正敏)を訪問することになり、雨宮にそれを断られたことで三上は窮地に立つ。やがて事件について刑事部が隠蔽した“幸田メモ”という文書の存在が明らかになる。

 警察内部の権力構造、刑事部と警務部の対立、捜査現場で起きた手痛いミス、亡き娘と妻に心を囚われたままの雨宮。さまざまな要素が盛り込まれた展開だが、前編の見せ場はやはり三上と記者クラブの面々との激しい言い争いである。血気盛んなイメージの佐藤浩市が「なにも考えず上の言うことを記者たちに伝える」役目に甘んじられるはずがなく、自分の言葉で彼らと向き合う姿に生命力が迸って魅力的だ。「組織と組織の話をしているんじゃないっ、おれを信用しろと言っているんだっ」。その舌鋒に説得力があり、綾野剛、金井勇太、榮倉奈々が演じる広報室の部下が彼を慕う気持ちがよくわかる。県警に対する不満が膨れ上がった記者を演じる瑛太ほか、記者役の演技陣も生き生きしている。

 前編の最後に14年前の事件を模倣した誘拐事件が起きる。それを描く後編で、14年前の事件の真犯人があぶりだされることになる。ここで悲痛な心理を見せるのが雨宮で、永瀬正敏の入魂の演技には心を奪われる。前編にさりげなく登場して奇妙な印象をもたらす公衆電話ボックスが後編の鍵になっており、その意味が明らかになると、安易な言葉では言い表せない独特の情感が立ちあがる。彼の“行為”を思い浮かべると胸にきりを刺しこまれるようだ。

 前編、後編2本に分けられた映画は最近の流行りだが、『64』は珍しい成功例だと思う。何度観ても飽きない緊張感漲るよい顔と迫力ある会話を堪能できるからであり、ある事件に巻き込まれた人間(当事者と捜査関係者)の苦しみに改めて想像力をかきたてられるからである。いろいろ書いておいて矛盾するが、情報をあまり入れずに無心にスクリーンと対峙することをおすすめする。
                              (内海陽子)

64-ロクヨン-
64-ロクヨン-前編 公開中
64-ロクヨン-後編 2016年6月11日 全国公開
オフィシャルサイト http://64-movie.jp/

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