©2013 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
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良質な映画というのは自然と感情移入をさせられていくものだ。もちろん、ただ感情を動かされるだけでは不足だ。たとえばその作品の主人公が自分とまったく違うタイプの人間だったり、あるいは自分ではとても体験できないような出来事に遭遇した上で、さらにその主人公に心を動かされた時に初めて自分の映画史に残る作品になるのである。

本作は、まさにそんな作品で吉行和子が演じる主人公は77歳のおばあちゃん。名前は『鶴本たゑ』といういかにもお年寄りという感じの名前である。介護の末に夫を亡くし、一人暮らしをしているが『人生を輝かせる』ために何と婚活を始める、というストーリーである。

さて、少し個人的なことになるがボクは26歳の時に婚活の苦労などいっさいせずに結婚をしているので、婚活に励む人の苦労はわからないし、しかも77歳の女性の気持ちなどわかりようがない。しかしながら、繰り返しになるが本作に心を持って行かれたのである。

©2013 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
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では具体的に、この作品のどこに魅了されたのか?それは一言でいえば『彼女が世間という怪物と戦っているから』である。たとえば、彼女は冒頭で結婚相談所に行くが、当然ながら友達、あるいは息子、そして挙句の果てには相談所のスタッフにまでやや大げさにいえば狂人として迎えられてしまうのだ。

まず、結婚相談所のスタッフに『息子さんのお相手探しですか?』と確認される。そして自分がパートナーを探している旨を伝えると言葉には出さないまでもやはり好奇な眼差しで見られてしまうのだ。

そして、彼女が入会している老人クラブ『燦燦会』の会長であり、彼女の旦那・修一を看取った病院の院長の森口慎二(宝田明)には『晩節を汚すなよ』と言われ、結婚相談所に通っている事実がバレた時、久しく会ってなかった息子には『老人として恥ずかしくない生き方をして欲しい。二度と相談所に通わないでくれ』というようなことまで言われる始末である。

要するに彼女が最愛の人を亡くして、その埋め合わせをするために、もっと過激な言い方をすれば男遊びをするために結婚相談所に登録したと、まわりから思われてしまうのだ。そういう無言のプレッシャーに彼女が押しつぶさそうになりながらも、奮闘する。これが本作の面白さだろう。

そして面白いのが、森口慎二のキャラクラーである。彼は日本教の代表みたいな人間なのだ。ちなみに、日本教とは神ではなく人間を中心とする和の思想である。当然ながら和を重いんじることそれ自体は悪いことではないが『和を乱すなよ』『空気を読めよ』という島国根性や農耕民族としての無意識の圧力にがんじがらめにされて身動きが取れなくなってしまっている人はかなり多いのではないだろうか?

©2013 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
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たとえば、彼女が人生を再スタートさせるために新しい恋をしようとすると、森口がその『抜けがけ行為』を許さないように巧妙な言葉で圧力をかけてくる。

彼はことあるごとに彼女のことを諭す。それはまるで『いまさら新しいパートナーを見つけるなんて、天国にいる修一に失礼だ』とでも言いたげで、彼の名前を出すことで彼女の自由を奪おうとする。そんな隠れた暴力的言動が至るところで出てくる。もちろん筆頭格の森口を軸にそれ以外の人間も彼女が老人らしく、慎ましい生き方に改心してくれるように巧妙に仕掛けを打ってくるのだ。

ところで、『友を装う敵』のことを『friend』(友)と『enemy』(敵)を組み合わせた混成語でfrenemy(フレネミー)と言うがまさに、彼女のまわりにはまさにフレネミーだらけなのだ。

少なからず彼女の自由を応援するような素振りを見せる仲間はいるのだが、いつ森口の影響でフレネミーにさせられるのか?という好奇心で最後までボクは鑑賞した。

それでも彼女は筋を曲げずにまさに『老人らしくない生き方』
そして森口の言葉を借りるならば『晩節を汚す』生き方を貫いていく。この根性は本当に見上げたものでボクも見習いたいと心底思ってしまった。

さらに見どころとしては結婚相談所の実体が垣間見えるシーンが次々出てくる点だ。

たとえば、女性の身体目的で出入りしているスケベなおじいさんがそこにいたり、あるいはビデオレターみたいなモノを使いプロフィールを登録する作業があることも本作を観れば確認できるのだ。

©2013 埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
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そして、何といっても本作では隠し味で東京タワーの夜景を観せるシーンが出てくる。最近では、スカイツリーを出してくる映画が多くなってきたが、ボクとしてはまさに忘れていた存在である東京タワーを、しかも最高にロマンチックな場面でスクリーンに映してくれたことに本当に感謝したい。

もちろん、どの場面で使われていたのか?についてはしっかり劇場で確認してもらいたい。

なお、ボクがもっとも驚いたのは77歳が主人公のこの婚活ムービーを撮ったのが何と32歳の監督(外山文治)で、しかもこれが長編デビュー作という点だった、ということを書いて締めとしたい。 (小野義道)

燦燦 -さんさん-
2013年 日本映画/ドラマ/81分/監督:外山文治/出演・キャスト:吉行和子、山本學、宝田明ほか/配給:東京テアトル/デジタルSKIPステーション
11月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ユナイテッド・シネマ浦和ほか全国順次公開!
『燦燦 -さんさん-』公式サイト http://sansan-eiga.com/

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