宇宙空間を旅する映画なら、いくらでもある。今は、CGでなんでも描くことができる時代だから、ダイナミックな映像もありふれている。壮大な空間でも、想像できる限り体感できる。

それに慣れっこになってしまった。それなのに、デイミアン・チャゼル監督の『ファースト・マン』には驚いた。

体感のリアルレベルが並でないのだ。特に最初のシーン。 X-15 に乗って、大気圏を突破していく。X-15は宇宙船ではないので、それは事故だ。ニール・アームストロングは、死に瀕している。その緊迫した状況を、『ファースト・マン』は大げさではなく、端正な映像で宇宙空間のリアルさを伝える。

アームストロングが月を目指すジェミニ計画に応募し、面接のときの会話でその経験が再現される。「わたしは、大気圏を観察する機会が何度かありましたが、大気圏は、あまりにも薄く、やっと確認できるほどの小さな一部でしかない。

それを下から見上げるときは広大に見えます。(あるのが当たり前なので)考えることもない。だけど、反対側の地点からだと、見え方が変わるのです」

地球を宇宙から撮った写真(ザ・ブルー・マーブル)が公開されたとき、その青く輝く画像は、たくさんの人々の意識を変えたと言われているけれど、『ファースト・マン』は、稀有なリアル感で、ザ・ブルー・マーブルをもっと近く、もっと現実的に意識させてくれる。

英雄でもある月に最初に降り立った男、ニール・アームストロングの家庭人としての生活ぶりも、映像にリアル感を与えている

夫婦ともども会話するタイプではない。寡黙で内にこもっている。会話に頼らない一つひとつの皮膚感覚、空気感が伝わってくる。

莫大な予算を投じたエンターテイメント巨編という顔の奥に、インディーズ映画風のごくごく身近で個性的な世界が広がっている。言い方を変えると、CGの映像と、日常生活の風景のつなぎ目が滑らかで、繊細だ。

ニール・アームストロングにライアン・ゴズリングを起用したところも成功の一つ。『ドライブ』や『ブルー・バレンタイン』に見るように、熱さを抱えながらも表はあくまでも静かな男というのは、彼の一番得意とするタイプだ。

妻を演じるクレア・フォイも映画の魅力に、最大限の効果を与えている。行為とことばの微妙な関係に独特の雰囲気を持ち込むことで。

ザ・ブルーマーブルの確かな実在感とともに『ファースト・マン』は、意識に新しい風を与えてくれる。

(オライカート昌子)

ファースト・マン
2019年2月8日(金)全国ロードショー
配給:東宝東和
©Universal Pictures