『ゲット・アウト』レビュー

「ゲット・アウト、出て行け!」と言っても、これはトランプ大統領の映画ではない。

アメリカでは今年2月に公開された恐怖映画である。

ストーリーが抜群に面白い。

ニューヨークに暮らすハンサムな黒人クリスが、週末に白人の恋人ローズの実家に招待される。
ローズの両親はクリスを黒人だとは知らない。
タイトル通り、クリスは「ゲット・アウト」と一蹴されてしまうのか。

映画のオープニングに矢継ぎ早に流れる3曲がこの映画を予告する。

1曲目は閑静な住宅地である夜、黒人の青年が車のトランクに拉致されるシーンに、カー・ラジオから流れる。

1939年のヒット曲『ラン・ラビット・ラン』だ。

マザーグースのような遊び歌で、「逃げろよ逃げろ、うさぎちゃん。でなきゃアイツに捕まって、うさぎのパイにされちゃうぞ」てな恐〜い歌詞。

続いてのタイトルバックには南部の風景とともに黒人歌が聞こえてくる。


トドメの3曲目は最近のヒット曲『Redborn』。

彼女の悪だくみに気づいてもなお、彼女を愛し続ける男の切なさが歌われる。

ちなみのこのRedbornとは黒人と白人のハーフのことなんだってさ。

物語に戻ろう。

黒人クリスはなんら問題もなく白人一家に歓迎される。

ただ、ローズの親父の言葉がちょっぴり気にかかる。

「大丈夫だよ、私はオバマ支持者だ」
「この辺の鹿はネズミのように増えすぎた。間引きしなきゃな」
「おいおい、それはクリス君の勘違い。キミに黒星が付いたな」

こうして私たち観客はクリス君に共感しながら1時間30分以上もの間、映画館の椅子に金縛り状態になるのだ。

この傑作を生んだのは黒人コメディアン、ジョーダン・ピール。

日本での知名度は低いが、本国アメリカでは数々のコメディ番組で賞を獲得している人気者なんだって。

恐怖映画『ゲット・アウト』はそんなジョーダン・ピールの監督デビュー作というからオドロキだ。

ジョーダン監督は、「恐怖と笑いは表裏一体」を信条にオリジナル・ストーリーを作り上げた、という。

なるほどね。『ゲット・アウト』には怖さの中にユーモアと風刺が絡められている。思わず頬が緩む瞬間もあるわけだ。

それにしても、このジョーダン・ピール監督、あの「911テロ事件」をもブラック・コメディネタとするあたり、只者ではないぞ。

クリス君がお邪魔する白人一家のファミリー・ネームは、アーミテージ。

おそらく観客の60パーセント以上は、あのジョージ・ブッシュ大統領時代のアーミテージ国務副長官を思い浮かべるだろう。

泣く子も黙るアメリカ合衆国の軍人、政治家、リチャード・アーミテージ!

映画の中のアーミテージ親父もがっしりとした白人体格でオーラを放ち、人望が厚い人物として描かれているから、これもジョーダン監督の仕掛けだったのだろう。

しかし、恐怖の物語は、アーミテージ親父よりアーミテージお袋の才能によって奈落の底にゴロゴロと音を立てて転がっていくのだった。。。。。。

先述の通り、映画『ゲット・アウト』は本国2月公開ながらその衝撃的な内容は少しも薄れることなく、次回のアカデミー賞で何個のノミネートに輝くか注目されている。

今年は、というか、今年もまた黒人を描いた映画、ことさら人種差別を取り上げた秀作が多いと聞く。

黒人差別による大規模な暴動を描いたキャスリン・ビグロー監督の社会派映画『デトロイト』、南部での黒人差別を綴った歴史物『マッドバウンド 哀しき友情』から、パキスタン人とアメリカ人のカップルが文化の壁にぶち当たるロマンチック・コメディ『The Big Sick』まで様々なジャンルがオスカーに名乗りを上げている。

そんな中にあっても、『ゲット・アウト』は異彩を放ち続けている。

唯一オリジナル物であるという強み、コメディアンが作った恐怖映画というギャップ、場内が明るくなるまで一瞬たりともよそ見ができない圧倒的面白さ。。。

ははーん、差別発言が大いに目立つ「トランプ時代」だからこそ、多くの観客に持ち上げられる映画なのかもしれない。

最後にもう一言。
映画のエンディングは2種類あるんだってさ。
私が想像するにはコチラのエンディングの方が断然好きな気がするな。

てなわけで、見終わってからもう一つのエンディングをあれこれ考えてみるのも一興だろう。

(武茂孝志)

ゲット・アウト
©2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved
監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール
キャスト
クリス・ワシントン:ダニエル・カルーヤ『ボーダーライン』(15)
ローズ・アーミテージ:アリソン・ウィリアムズ「GIRLS/ガールズ」(12〜)
ディーン・アーミテージ:ブラッドリー・ウィットフォード「ザ・ホワイトハウス」(99〜06)
ジェレミー・アーミテージ:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ『バリー・シール/アメリカをはめた男』(17)
ミッシー・アーミテージ:キャサリン・キーナー『カポーティ』(05)
配給:東宝東和
2017年/アメリカ映画/104分
2017年10月27日(金)より全国ロードショー