(C)2013『そして父になる』製作委員会
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世の中には、どんな映画なのか?ということよりも誰が出ているのか?という基準で映画館に足を運ぶ人がいる。

もちろん、それはまったく悪いことではない。実際身近なところではボクの6歳年上の妻も好きな俳優やお気に入りのジャニーズ(新井浩文/櫻井翔など)が出ているからそれをお目当てに劇場に行っている。むしろ監督名あるいは国際的な賞を受賞したからその作品をチェックしよう、という人(別名・自称映画通)は少数派だろう。

では、その人たちは『人気者』が出ている映画の情報をどこで知ることになったのか?と言えばおそらくテレビでの宣伝である。まだまだネットよりテレビでの効果は絶大なのだ。

その証拠に2012年興行収入成績ランキングのトップ3をチェックしてみると『BRAVE HEARTS 海猿(主演・伊藤英明)』『テルマエ・ロマエ(主演・阿部寛)』『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望(主演・織田裕二)』と続き、何とすべてがフジテレビの制作である。

もちろん、公開規模や宣伝費の違いはあるが事実だけを見ていくとフジテレビ制作で公開規模多めで主演俳優が人気者となるとヒットする可能性は高くなり、ヒットしたことによりさらにネットでの評判が広がり興行収益を伸ばすことになる。

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一部では落ち目と言われているフジテレビの場合も実際には制作映画を『めざましテレビ』と『笑っていいとも!』で徹底的に宣伝することがマニュアル化されているので、その刷り込み効果はまだまだ大きいのだ。

さて、そんな実例に漏れず本作もフジテレビジョン制作で人気者・主演(福山雅治)なのだ。そしてプラス要素としてカンヌ国際映画祭審査員賞受賞、是枝監督作品となる。

ところで、ボクは2009年に公開された『空気人形』で是枝監督の抜群の映像センスに惚れ込んだが、昨年の秋にこれまたフジテレビで放送されていた是枝監督の連続ドラマ『ゴーイングマイホーム』も映像センスは抜群だった。もちろん、本作でもそのセンスは健在でさらに進化している。それにしてもフジテレビの引きの良さは異常である。

さて、では確実にヒットすると思われる本作『そして父になる』はいったいどんなストーリーなのか?楽しみを奪わない範囲でそれを簡潔に書いておきたい。

大手建設会社に勤務するエリートサラリーマン野々宮良多(福山雅治)はある日、6歳になる息子が実は他人が取り間違えた子だったことを産院からかかってきた電話で知らされる。妻のみどり(尾野真千子)とともに相手方の家族と話し合いをすることになる。相手方は群馬で小さな電気屋を営んでいる斎木雄大(リリー・フランキー)とその妻・ゆかり(真木よう子)。彼らとの交流や血の繋がっている実の子供・斎木流晴、育ての子・野々宮慶多を通して良多が『そして父になる』というのが大ざっぱなストーリーだ。

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まず、野々宮家と斎木家の間で明らかな経済的格差がある、という点が見どころの1つである。野々宮はスカイツリーが一望できるマンションに住んでいて、斎木家は電気屋兼住まいなのだ。具体的な年収の話は出てきていないが推測するに1000万以上の開きはあると思われる。

また部屋のインテリアから子育て方針まで、180度違うがその背景にはやはり経済力の差があるのだ。それは劇中に出てくる料理を比べても完全に両家が『対』の設定になっていることがわかる。この関係になっているというアングルで本作を見るとさらに楽しむことができるのだ。具体的には野々宮家ではどうみても高級肉を使っていると思われるすき焼きを、斎木家ではスーパーのタイムセールで買ってきたと思われる餃子を食べている。それ以外にも、対称的な構図は出てくるがそれは見てからのお楽しみである。

しかしながら、対称的といってもあくまでの野々宮は裕福なサラリーマン家庭、斎木家は貧乏だが生活は最低限の生活はできている電気屋という形にしてある。もし、この格差をあまりにも大きく描いてしまった場合、物語の主軸がずれて『格差問題』がテーマになってしまう。あくまでも本作の主軸は野々宮良多がいかにして、父になるのか?という点である。その意味でも両家の格差をちょうどイイ感じのバランスにしたところが是枝監督の巧さだろう。

さらに本作を猛プッシュしたい理由は斎木雄大を演じるのがリリー・フランキーという点だ。彼が野々宮家との話し合いの時に話半分でご飯ばかりを食べているシーンは芝居ではなく、実は普段からそういう人ではないか?と誤解を与えてしまうくらいの名演技である。

考えてみればリリー・フランキーという人は俳優として過去に例にないほどの近年大化けをしているのだ。パチンコでたとえるならまさに確変状態に入ったといえる。この状態はおそらく2011年の秋に公開された『モテキ』から始まり『凶悪』や来年公開される『ジャッジ!』としばらくは続いていくことになるだろう。

そして、リリー・フランキーを出演させたことで、人気者映画にありがちが失敗を踏んでいない点がとても大きい。要するに人気者映画を映画通は内心馬鹿にしている、というパターンがかなり多いのだ。だいたいイケメン俳優や女優の顔だけを売りにして作った映画というのを彼らは異常に嫌う傾向にある。

しかし、本作は福山雅治ありきの映画になっていない、という意味で、これまでの人気者映画とはレベルが違うのである。

また、福山雅治のドライに見える人間性が最大限発揮されている点も見逃さないでもらいたい。

いずれにしても映画初心者、映画通が両方満足するレベルの大傑作は少なくとも今年はもう出てこないと思われるので、見逃し厳禁だ。

なお、最後に個人的なエピソードになるが本作があまりにも気に入ってしまったのでボクは友達にチケットを1枚プレゼントした、という事実を披露して締めとしたい。

(小野義道)
そして父になる
福山雅治主演・是枝裕和監督最新作
2013年9月24日(火)~27日(金)全国先行公開 9月28日(土)新宿ピカデリー他全国ロードショー
公式サイト http://soshitechichininaru.gaga.ne.jp/

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