映画『ヴェノム』レビュー

この上なくチャーミングなダークヒーロー/モンスター映画

null
『ヴェノム』は軽快にスタートする。宣伝は”最悪”をうたっているけれど、印象は真逆だ。チャーミングで魅惑的、好ましいヒーロー映画だ。普通のダークヒーロー映画の暗くて寂しく哀しいというイメージはない。残虐なところはあるし、ヒーローの前に立ちふさがる壁は高く大きい。それをどう超えていくのか。それがどう描かれているのかが、この映画の醍醐味である。

テレビのレポーターとして、人気者のエディ・ブロックは、美しい弁護士のアンと何一つ欠けることのない生活を送っていた。エディの欠点はただひとつ。正義感が強すぎること。それで仕事を失ったこともある。

会社からの命令で、ライフ財団のトップ、カールトン・ドレイクの取材に行くことになったが、エディの興味は、ライフ財団が危険な人体実験を行っているのではないかということ。ライフ財団の弁護を行っているアンの秘密のファイルを家で盗み見たことで、彼の疑念は確信に変わり、インタビューでその質問をぶつける。そのせいで仕事をまたしてもクビになってしまう上、アンにも振られてしまう。

自暴自棄の生活を送っていたエディに、ライフ財団の研究者ドーラから連絡が入る。財団が行っている人体実験についての告発だった。エディはドーラとともに夜財団に忍び込む。そこでは、宇宙からのサンプルの人体実験が行われていたが、サンプル(シンビオート)がエディに寄生したことから、エディの身体に恐ろしい変化が訪れる。

『ゾンビランド』、『ピザボーイ 史上最凶のご注文』などのルーベン・フライシャーが監督。ミュージック・ビデオの製作でキャリアを積んだだけあって、場面転換の切れ味や、絵作りの端正さが実に心地良い。エディとアンの最初のやり取りで、すっかり乗せられてしまった。アクションシーンも一味違っているし、ヴェノムを含めたキャラクターの造形にも作り手の心配りの精神を感じる。凶悪描写が不思議とチャーミングに見えるという独特な味につながっている。

正義のジャーナリストエディがモンスターに寄生されるという恐ろしい設定が、必要不可欠なバディと出会う感動ストーリー、あるいは、心温まるロマンチックな映画へと変わってしまうのだ。恐怖の元は保ったままで。

エディ演じるトム・ハーディ、アン演じるミシェル・ウィルアムズという二人の俳優の共演の見事さも映画を忘れがたいものにしている。二人の”キス”のシーンは、サム・ライミ版『スパイダーマン』(2002)のキスのように強い印象を残す。

(オライカート昌子)

映画『ヴェノム』作品情報

11月2日(金) 全国公開
(c)&TM 2018 MARVEL
監督;ルーベン・フライシャー
キャスト;トム・ハーディ エディ・ブロック
ミシェル・ウィリアムズ アン・ウェイング
リズ・アーメッド カールトン・ドレイク
スコット・ヘイズ
リード・スコット
2018/アメリカ映画/アクション・アドベンチャー・SF/112分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト http://www.venom-movie.jp/